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プロ野球

ソフトバンクを優勝に導いた「組み合わせの妙」。工藤監督が異例のシーズンで見せた采配術とは?

喜瀬雅則

2020.10.30

「本来なら、スタメンは固定したい」というのが、工藤監督の本来のレギュラー観だ。指揮官が尊敬する恩師の一人・王貞治球団会長も、理想のオーダーについて「監督が9人の名前を書いて、それで試合が始まって、終わる。それが一番なんだよ」と表現したことがある。

 プロ野球の世界は、「勝っている時は動くな」というのが鉄則だ。昨季まで3年連続で日本一を達成し、戦力の充実ぶりは他球団を圧倒しているホークスがあえて今、何かを大きく変える必要などない。それが普通の考えだろう。だが、球界の常識にあえて反する「日替わりオーダー」は、固定観念に囚われない工藤監督らしさでもあった。

 優勝を決めた111試合目の時点で、4番を務めたのは9人。そのうち最も試合数が多いのは、グラシアルの31試合。次いで中村(26試合)、バレンティン(20試合)、栗原陵矢(11試合)。昨年の4番最多はデスパイネの113試合で、今季の“異例の分散ぶり”がよく分かる。だが、こうした日替わりオーダーでもチーム打率、得点はいずれもリーグ2位。この背景にあるのは、ソフトバンクには多彩なポジションをこなす“ユーティリティ・プレーヤー”が多いという事実だ。
 
 今季、レギュラーに定着した6年目の栗原は、捕手登録ながらライト、レフト、一塁も守ることが可能だ。中村も一塁とレフト、グラシアルはレフトとライト、そして三塁もこなす。俊足で後半戦からレギュラーの座をつかんだ3年目の周東佑京も、二塁、遊撃に加えてセンター、レフトの4ポジションを守る。さらに明石健志、川島慶三、牧原大成も複数ポジションをこなせる汎用性を備えている。逆に内川が出場機会を持てなかったのは、「一塁しか守れない」という点も大きく影響しているともいえる。ユーティリティを多数揃えたからこそ工藤監督の選択肢が広がり、多彩なオプションが可能になったのだ。

 加えて投手陣も、優勝が決定した時点でのチーム防御率が12球団トップの2.96。安定したディフェンス力と「組み合わせの妙」を生かした効果的な攻撃で、今月に入って12連勝と驚異的なラストスパートを見せ、最終的には独走状態でゴールインした。

 最後に見せつけたソフトバンクの底力は、選手個々の優れた能力を工藤監督の巧みな指揮で最大限に引き出した“最適解”と言えるだろう。

取材・文●喜瀬雅則(スポーツライター)

【著者プロフィール】
きせ・まさのり/1967年生まれ。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で 2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。第21回、22回小学館ノンフィクション大賞で2年連続最終選考作品に選出。2017年に産経新聞社退社。以後はスポーツライターとして西日本新聞をメインに取材活動を行っている。著書に「牛を飼う球団」(小学館)「不登校からメジャーへ」(光文社新書)「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」 (光文社新書)
 
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