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MLB

人工芝は「馬も食わない代物」――MLB史に残る名言を残した“稀代の問題児”ディック・アレンが世を去る

筒居一孝(SLUGGER編集部)

2020.12.09

 折しも60年代のアメリカは、公民権運動の真っ只中。激しい自己主張を続ける黒人たちに対して保守的な白人層が反感を持っていたこともあり、アレンはただでさえ厳しいフィラデルフィアのファンから、ブーイングどころか罵詈雑言を浴びせられるようになってしまった。「毎日ずっと“クズ”とか”怠け者”とか言われていたから、いつしか自分は本当にそんな人間なのかと思えてきた」と、アレンはのちに回想している。

 フィリーズに在籍した7年間で打率リーグ10位以内が4度、本塁打リーグ10位以内も5度入ったが、どんなに好成績を残してもブーイングは止まなかった。それどころか、観客席から物を投げつけられるため、守備でもヘルメットを被らなければならなかったほどだ。

 不当な扱いにすっかりうんざりしたアレンは、球団にトレードを要求。69年オフにカーディナルスへ放出され、その後もチームを転々とした。ホワイトソックス時代の72年には本塁打・打点・四球・出塁率・長打率の5部門でリーグトップの成績を残してMVPも受賞したが、前述のサントとの確執もあってチームを離れざるを得なくなった。
 
 だが、近年はその実績が再評価されつつある。リーグ平均に対するOPSの傑出度を表すOPS+は、歴代19位の通算156(通算3000打席以上)。これより上の数値で殿堂入りしていないのは、現役のマイク・トラウト(エンジェルス)を除けば、ステロイドユーザーのバリー・ボンズとマーク・マグワイアだけである。

 今年8月には、背番号15がフィリーズの永久欠番に指定された。これまで、フィリーズの永久欠番には殿堂入り選手でなければならないという不文律があったが、球団は方針を変更してまでアレンに欠番を与えたのだ。

 さらに、今年度のベテランズ委員会による投票で殿堂入りしていたはずだと見る向きもある。本来なら今月6日に投票が行われる予定だったが、コロナ禍の影響で投票が来年に延期されてしまったため、アレンは自身の殿堂入りを見届けることなくこの世を去ってしまった。

 歴史に残る名言を残した稀代の個性派アレン。そう遠くない時期に、彼のキャリアが正当に評価される日がようやく訪れそうだ。

文●筒居一孝(SLUGGER編集部)

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