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プロ野球

田中、菅野、千賀の動向から見る“移籍制度の歪み”。「FA、ポスティング」の問題点とは?〈SLUGGER〉

中島大輔

2021.02.03

 同制度がNPBに誕生したのは1993年。野茂英雄がドジャースに移籍する2年前で、この権利を行使して有力選手が次々と海を渡る事態はほぼ想定されていなかった。

 当時の経営状況は、パ・リーグ全球団が赤字、セ・リーグは1試合1億円という巨人戦の放映権頼みで、スタジアムビジネスが軌道に乗った現在とは大きく異なる。

 そうした経済的な事情もあり、FA権は選手に“使いにくい制度”として設計され、取得年数は9年(逆指名で入団した選手は10年。のちに国内FA権は短縮)、そして「宣言」という“踏み絵”のような仕組みも設けられた。当時、選手会には顧問弁護士がおらず、極端に球団有利な条件を呑まされ、現在まで大きな改善なく来ている。

 MLBで先に誕生した「Free Agent」を直訳すれば、「自由契約」となる。対してNPBは、「FA」と「自由契約」に異なる意味づけをした。前者は所属球団に長らく貢献した功労者への“権利”で、後者は契約更新を見送られた選手の“状態”だ。自由契約選手のほとんどが「戦力外」と見なされ、たとえトライアウトで実力を示しても「あいつは1度クビになった選手だから」と獲得を見送られたケースも少なくないと聞く。
 
 田中が今季終了後にオプトアウトを行使した場合、MLB的には「FA」だが、NPBでは「FA」ではなく「自由契約」になる。なんだかわかりにくいが、外国人選手はすべてこうした扱いだ。

 今後、田中のように20代中盤で海を渡り、30代前半でNPBに戻ってプレーし、再びMLBに行くというキャリア設計は増えるかもしれない。日本のファンにとっても、メジャー帰りの“大物”を全盛期のうちに見られるのは望ましい。こうした事例を増やすには、移籍制度を改善する必要がある。

 そう考える理由として、ポスティングシステムが機能不全を起こしていることも挙げられる。顕著なのが、今オフに不成立となった菅野のケースだ。

 そもそもポスティングは選手に与えられた権利ではなく、NPB球団がMLBに主力を“タダ”で獲られないためにつくられたという経緯がある。野茂が1994年オフに“任意引退選手”となって近鉄からドジャースへ、1997年にはFA権未取得の伊良部秀輝がロッテからヤンキースへ、パドレスとの“三角トレード”で移籍した。これらを受けて1998年に「日米間選手契約に関する協定」が結ばれ、ポスティングが導入された。主導権は球団にあり、選手は“お願い”する立場だ。
 

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