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プロ野球

ソフトバンクが手に入れたのは単なる1勝ではない。千賀を"温存"できたのが何よりの好材料だ

氏原英明

2019.10.10

 すると、ここから両指揮官が激しく動いた。

 西武の辻監督は平井に変えて、平良海馬を投入。その平良が松田を空振り三振に切って取ると、今度はソフトバンク・工藤公康監督が腰を上げた。内川に変えて、代打・長谷川勇也。そして、長谷川は左翼前にしぶとく落として同点に追いついたのだ。

 さらに、ソフトバンクは、相手のミスを見逃さない。次打者・グラシアルの初球だ。西武・平良の変化球を捕手の森が弾いたのを見ると、三塁走者の周東佑京が生還。これが決勝点になった。

 9回にも果敢に攻めたソフトバンクは今宮、松田の適時打などで3点を追加。手を出し尽くした西武は最後に集中力を欠いて敗れた。

 ソフトバンクは勝敗をタイに戻したことも大きいが、それ以上に好影響を与えるのが先発投手だ。

 セ・リーグとは違って試合後に予告先発が発表される明日は、ソフトバンクは武田翔太がスタートのマウンドに立つ(西武は今井達也)。

 もし、ソフトバンクが負けていた場合、明日の先発は千賀だっただろう。2つの星をリードされて後がなく、中4日で千賀を先発させなければならいからだが、それを回避したのだ。
 
 その影響があるから、西武・辻監督、ソフトバンク・工藤監督の二人は、決死の采配を見せたのだろう。

 工藤監督はCSファーストステージの時から「(采配に)後悔したくはない。そのためには苦しい決断しなければいけない」とその思いを語っている。土壇場での決断が試合を面白くしたのは間違いない。

 両者のそうした鍔迫り合いがある中でも、ソフトバンクの選手たちは結果を残すのだから、強いのだろう。例えば、今日のヒーローになった松田は、CSファーストステージにおいて、工藤監督の「苦しい決断」にさらされ2試合、スタメン落ちを経験した選手だった

 その彼が今日までの間にしてきたことは、バッティング技術の改善だった。フォームを少し変えて調子を取り戻そうともがき、試合を迎えていた。腐っている時間は彼にはなかったということだ。

 この日、西武は平井をイニング途中、しかも、まだ同点に追いつかれていない中で交代させている。シーズン中にもほとんどなかった采配は苦しい決断だったはずだが、交代させられた平井はショックを隠しきれない様子でベンチに佇んでいた。

「いろんな意味で経験だよ」
 
 辻監督は試合を振り返りながらいつもようにそう語ったが、ソフトバンクにあって、西武にないものが「経験」と散々言われてきた中で、そろそろ、その言葉は終わりにしなければいけない。

 ベンチでうなだれた平井を含め、後を受けて逆転を許した平良、そして、集中力が切れていくつかのミスをした捕手の森も、どう取り返すか。

 対戦成績は1勝1敗のタイになっただけで、CSはまだ終わっていないのだ。
 
 ソフトバンクの松田がスタメン落ちに腐らずに技術を改善して、この日、結果を残したように、西武も前に進めるか。それが経験というものになろう。

「短期決戦だからと割り切って明日頑張るしかない」
 
 辻監督はそう前を向いた。

 第2戦がまた楽しみである。

文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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