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高校野球

「地区大会で大阪桐蔭を倒しても、誰も知らない」平成最強校を“甲子園”で下した智弁学園・小坂監督が目指す場所<SLUGGER>

氏原英明

2021.03.23

「あの場面はいろんなパターンを考えていて、バントのつもりでした。しかし、相手の守備がチャージをかけてくると、そのままバントしてしまうとアウトになることもある。こういうケースではバスターも選択肢に入れて、視野を広く持てと選手には言ってきました。大阪桐蔭がチャージをかけてくることは分かっていたので、森田が考えてやってくれました」

 たくさんの修羅場をくぐり抜けてきた大阪桐蔭がゲームの流れを変えるべくチャージをかけてきた。その網を掻い潜っての3得点はこの試合の重要なポイントの一つになっただろう。

 小坂は続ける。

「試合前から、両投手が安定しないので初回がポイントの一つになるという話をしていました。もともとうちは打撃には自信のあるチームなので、初回は攻めていった。僕は試合の前半と後半を分けて考えるので、6回からはまた改めてという気持ちだった。その中で、いろいろ考えた中で、点を取れたのは大きかった」

 6回以降に大阪桐蔭の反撃を受けて2点差まで詰め寄られたものの、9回にはこれまでチームを引っ張ってきたエースの西村王雅を諦め、背番号10の小畑一心にスウィッチ。二死三塁のピンチこそ背負ったが、小畑は期待に応えて無失点。前述の通り、5番・前田を三振に仕留めて勝利の雄叫びをあげた。
 
 もっとも、力投したエース西村をマウンドから下ろすこの采配も、これまでの小坂監督にはあまり見られなかったものだった。昨夏の甲子園交流大会では、トーナメントではなく1試合限りだったにもかかわらず、140球を超えた西村を延長戦まで引っ張ってサヨナラ負けを喫している。昨秋の近畿大会決勝戦でも西村は完投だった。

 その決勝戦の相手が、他ならぬ大阪桐蔭だったことは前述した通りだ。智弁学園が公式戦で大阪桐蔭に勝利したのはこの時が初めて。2016年に創部以来初めてセンバツの頂点になった智弁学園だが、それでも「全国の強豪」という位置にまではたどりついていなかった。小坂監督は、「大阪桐蔭や履正社と対等に戦えるようになっていかないといけない」とかつて話していたこともある。

 その中で大阪桐蔭を破った。甲子園という大舞台で、ある。

「近畿大会で勝っても、誰も知らないですからね」

 小坂監督はそう言って笑った。大きな壁を乗り越えた指揮官は、この1勝を大きな足がかりにするはずだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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