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プロ野球

奥川恭伸が追悼試合で見せた可能性。ノムさんなら「こんなもんか」と言いそうだが…

井上尚子

2021.03.29

 2020年はコロナ禍で開幕が大幅に遅れ、奥川の二軍公式戦デビューも6月になった。イースタン・リーグ西武戦で、1回を投げ無安打2奪三振。その後、二軍では7試合19.2回を投げ、1勝1敗、防御率1.83という成績を残した。2020年11月10日、昨季の最終戦で一軍昇格し、初めて神宮のマウンドを踏む。一軍デビューの広島戦は2回0/3でノックアウト。被安打9、5失点という投球の内容は無論良くなかったが、試合後のセレモニーでわざわざ奥川に挨拶させるほど、高津監督は奥川を買っていた。

 あの1試合を投げたことで、オフの心構えも変わっただろう。一軍で投げるため、勝つために何が足りないか、どうすれば良いか、それを考えて実行できる選手だ。探求心・向上心を人一倍持つ男は、悔しい経験をすればするほど、モチベーションを高く持って立ち上がり、大きく伸びようとする。

 昨年、清原和博氏は、自身が出演した動画の中で「対決して嫌だと思う投手は奥川」と語った。何故かといえば、「バッターを見ながら投げることが出来る」からだという。同じ150キロの球でも、バッターは見られるのが一番嫌なのだそうだ。
 
 高校時代から言われていたが、奥川はバッターを見ながら、状況に対応して投げ分けることの出来るクレバーさを持つ。プロの一軍の打者相手にはまだ難しくとも、自分の形を作り、持てる武器を使いこなせるようになれば、その時には打者の嫌がる投手、さらには恐れられる投手にもなっているだろう。それだけのポテンシャルがあることは、誰も疑っていない。

 村上宗隆が二軍で1年過ごしたルーキーの間、見守ったのは当時二軍監督だった高津監督だ。同監督は「しっかりと下ごしらえして皆さんの前に提供する」「今はどっしりした幹を作っている状態」だと語っていた。投手はまた別だろうが、大器であるほど育成方針にあれこれ言われることも多いはずだ。ただ、「小さくまとまらない」ことは、奥川自身も念頭に置いている。小手先の技術ではなく、大きく強く。確固とした土台を作り、憧れる田中将大のように「勝てる」投手として、長く一軍で君臨するのが目標だ。

 今回、追悼試合に奥川恭伸を先発としたのは、奥川のためだけではなく、ノムさんのためでもあっただろう。そこで奥川は一応試合の形を作ったが、ノムさんなら「こんなもんか」と鼻を鳴らしていそうだ。だが、こんなもんではないと見せつける日は、意外と近そうに思えてくる。今回はお膳立てだったが、いずれは大事な試合を自分の力で任される投手になるはずだ。

文●井上尚子

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