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MLB

「一塁盗塁」ルールはどうなった?アトランティック・リーグが実践する「より良いベースボール」のための試行錯誤【豊浦彰太郎のベースボール一刀両断!】<SLUGGER>

豊浦彰太郞

2021.06.04

 また、ぼくがインタビューしたあるコーチは、独立リーグ選手ならではの事情もあると語ってくれた。「一塁に駆け込んでも、メジャーのスカウトは評価してくれませんからね」。この選手心理を理解するには、ALPBの特性を理解する必要がある。そもそもALPBは、メジャーの舞台からこぼれ落ちたベテランがカムバックを目指して戦う場所だ。全体の約6割がメジャー経験者で、かつては晩年のリッキー・ヘンダーソンが、近年では左腕投手リッチ・ヒルがALPBで活躍後にメジャー復帰を果たした。

 球団との契約もフレキシブルで、選手はメジャー球団から声がかかればいつでも現契約を破棄できる。すべての選手は、スタンドに陣取るメジャーのスカウトにアピールしたいと思っている。打席の途中で一塁に走るのは、自らの打力を披露する機会を放棄する行為でしかない。

 今季開幕を前に、ALPBのリック・ホワイト会長にメールでインタビューした。「今季は一塁盗塁ルールは実施されないのでしょうか?」。すると、こんな回答が返ってきた。
 
「残念ですが、今季は採用しません。この斬新なルールを評価する者はリーグ内にも少なくないのですが。今季は、投手プレートと本塁間の延長と、ダブルフック(先発投手が降板すると同時に、DH制も解除しなければならない)が試されます。この戦略的な2つのルールにフォーカスしたいのです。一塁盗塁は来季以降です」とのことだった。立場上、そう言うしかないだろう。

 そもそもなぜ、このような愚かな(?)ルールが導入されたのか、首を傾げるファンも多いだろう。一連の新ルールに共通するコンセプトに、その答えはある。それは、「アイドリングタイムを減らし、より多くのアクションを」ということだ。ワンポイント禁止をはじめ、上記に紹介したものの多くはこれを目的としているし、投手・本塁間の延長も、三振を減らしてインプレーを増やすことを目指したものだ。他にも、投手は牽制時に必ずプレートから足を外す(盗塁を促進する)、スリーバント失敗は2度目でアウト(バントを増やし、野手の動きを活性化する)などもそうだ。その思想から生まれたアイデアだとすると、一塁盗塁も一概に否定はできない。

 我々は野球を変わらないもの、変わるべきではないものと捉えがちだ。しかし、現実は違う。一塁盗塁も今後数年で正式採用されることはなさそうだが、これらの試みが「野球をより魅力的な競技に」と願う人にとって重要なインスピレーションになることもあり得る。たとえ失敗であっても、これら試行錯誤はより良いベースボールに至るための一歩なのだ。


文●豊浦彰太郎

【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
 

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