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高校野球

「明るくて動じない」横浜の1年生・緒方蓮が放った起死回生の逆転サヨナラ3ランを呼び込んだ陰の要因<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.12

 打線の方も、5回に先頭の藤川蓮が中前安打で出塁、盗塁を決めて、2死二塁から1年生の河野優輝の適時打で1点を先制していた。9回には先頭の大可堯明からの3連打で1点を追加。花田から西井、そして秋山へとつなぐ継投も県大会からの流れで、どこを取っても広島新庄のペースだった。

 にもかかわらず、なぜ横浜がこの試合をひっくり返すことができたのだろうか。

 高校時代は涌井秀章(楽天)の同級生で、甲子園ベスト8の経験もある横浜・村田浩明監督は言う。

「厳しい試合になるとは思っていましたけど、ここまで苦しむとは思っていなかった。広島新庄の3人の投手には力があった。ただ、うちのチームは打よりも守備を重視してきたチーム。最後まで粘れたことが逆転につながったポイントだと思う」

 確かに、試合のペースは完全に広島新庄だったかもしれない。だが、先に好機を作ったのは横浜だったし、先制されたとはいえ僅差のゲームには持ち込めていた。9回に追加点を失ったものの、その後のピンチは無失点で切り抜けた。すんでのところで決定的に引き離されなかったことが、ラストチャンスの可能性を生んだと言える。
 もう一つ、チャンスで緒方に打席が回ってきたことも大きい。

 村田監督が「明るくて動じない」表現する緒方は、第1打席では初球を振り抜き、チーム初安打をもたらしている。

 だがその一方で、3回裏無死一塁の第2打席では送りバントを失敗している。それでも緒方は下を向くことがない。だから期待が高いのだと、村田監督は語る。

「緒方はバントのミスをしてもすぐにリセットして守備から入ってうまく切り替えができる。だから、9回に打席が回ってきた時には、やってくれるんじゃないかという期待があった」

 起死回生弾を放った緒方は笑顔いっぱいにこう話した。

「打ったのはストレートでした。ボールの内側を打つことを心がけて、初球から行こうと思っていました。バントの失敗はありましたが、下を向いていたら次のプレーがうまくいかないので、切り替えておこうと思っていました。僕は1年生なので、これからも相手に負けないように、がむしゃらにボールに向かっていきたい」

 守備で粘って、最後は底抜けに明るい1年生が試合を決める起死回生の一発を放った。意外な結末はそうして起きたのだった。

 次の2回戦で、横浜は優勝候補の智弁学園と対戦する。2011年に対戦し、9回表に大逆転負けを喫した相手だ。当時とはお互いの高校野球界での立ち位置も、チームスタイルも様変わりしているが、どんな戦いを見せてくれるか楽しみだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。
 

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