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高校野球

学びは自分自身の中にある。順延と不戦勝によるブランクを乗り越えた智弁和歌山の“思考力”<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.24

 この先制攻撃が指揮官の指示によるものではないということに驚くが、個々の選手たちに染みついている深い思考力が今年の智弁和歌山の強みなのだろう。

 中谷監督は言う。

「普段の練習から、カウントを取りに来る変化球を打っていかないといけないということは、チームの課題として取り組んでいることですので、3回の攻撃はいつも通りの取り組みだと思います。基本的に打席での狙い球は、選手にある程度は任せています。選手たちが相手投手を見て観察して、勇気を持ってトライしてくれた結果だと思います」

 中谷の指導スタイルは決して放任主義ではないが、プレーの感覚は人に言われて身に着けるのではなく、自身でつかんでいくものだという考えを持っている。

 例えば、相手投手のレベルを推し量る際に、ストレートを待ちながら変化球にも対応できるレベルなのか、変化球一本に絞らないと打てないレベルなのかを打者自身が感じるべきだと、選手たちに自覚を促している。
 
 中谷監督がかつてこんな話をしている。

「自分の中での基準を持てという話をしますね。『監督、僕のスウィングどうですか?』では困るんです。物差しを測ってやれるかどうかがプレーヤーとして大事なことなんですよね。監督に聞こうとするのではなくて、感覚をつかまないといけない。学びはどこにあるかと言ったら、本人自身の中に問題があって答えがある」

 中谷監督の指示を待つまでもなく、選手たちで考えて結果を出した。県大会から1か月近く試合はなかったが、対戦相手を分析して準備をすることを怠ってこなかったからこその結果である。

 この後、智弁和歌山は5回と8回に1点ずつを追加。9回裏に高松商の反撃を浴びたものの、5対3で勝利して準々決勝進出を決めた。

 戦前は智弁和歌山ナインの「試合勘」が危惧されていた。約1か月も実戦から遠ざかっていたのだから当然だ。長く甲子園で取材をしているが、大会が始まってからこれほど出番が延び延びになるケースは過去になかった。

 しかし、その試練を智弁和歌山は跳ね返した。そこに、彼らの地力を垣間見た気がした。

 ベスト8を決めた1勝は、彼らが取り組んできたことの正しさを証明する大きな勝利だったに違いない。 

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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