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高校野球

智弁和歌山が自ら学び、考える野球でつかんだ21年ぶりの頂点。相手主砲も脱帽した“基準と意識の差”<SLUGGER>

氏原英明

2021.08.30

 もっとも、その習慣付けのレベルが高いところに設定されていたのもまた事実だ。

 中谷監督が元プロの指導者であるということもプラスだが、いかんせん、今年は智弁和歌山ナインが基準にするレベルが高かった。というのも、常に基準の先には、同じ和歌山県のライバル小園健太投手(市立和歌山)がいたのだ。

 中谷監督が明かす。

「小園くんや捕手の松川虎生くんといった県内のライバルを基準に置きながら、昨年の冬から春、そして夏の練習を、みんなで意識を高く持ちながらやってきた。その相手を県の決勝で乗り越えることができた。その自信が、多少良い投手が来ても何とかなるって気持ちにさせていたと思います」

 ライバルを意識したことが技術を高めたという話ではなく、日頃から基準を持って相手投手を攻略することを習慣づけてきた結果だろう。その相手がドラフト候補であったからこそ、智弁和歌山ナインは高い打撃意識を保つことができたのだ。

 敗れた智弁学園の主将・山下陽輔も、智弁和歌山との違いについてこう語っている。
 
「準備段階で差があったと感じました。前の試合から自分のバッティングができていなくて、相手投手のどんな球を狙うのか。全員で同じことを徹底できなかった。そういうところを出せなかったのが敗因だと思う」

 智弁学園はチームとしての徹底が甘かったと振り返っているが、実はそうではない。選手が個々に持っていた基準の差だ。相手投手がどういったレベルの投手で、それをどう打ち崩していくかの基準が、智弁和歌山の選手たちの方が明確だった。純粋な打線の破壊力では智弁学園に分があったはずだが、両者を隔てたのはチームの差というより、習慣の差だったと言えるのかもしれない。

 中谷は選手が身につけるべき大事な考え方として、こんな話をしている。

「学校という環境は、一日の時間の半分くらいは座って先生が話をするのを聞いている状態です。そこで成績の良し悪しをつけられているわけですが、そこに慣れてしまってグラウンドで同じことをするのは、本当の学びではないんです。監督に聞こうとするのではなくて、自分で感覚をつかまないといけない。学びはどこにあるか。本人自身の中に問題があって答えがある」

 その結果、智弁和歌山が21年ぶり3度目の頂点に立った。中谷の指導の下で見せた「自身が学び、考えて実践する野球」も、令和の時代の新たな高校野球の形の一つと言えるだろう。


取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』(新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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