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MLB

イチローと大谷翔平。日本が生んだ2人の天才はいかにしてMLBの「頂点」を極めたのか?〈SLUGGER〉

出野哲也

2021.11.20

世界屈指の安打製造機として名を馳せたイチロー。その打撃スキルは、「ステロイド時代」と揶揄されたMLBにおいて異質なものだった。(C)Getty Images

世界屈指の安打製造機として名を馳せたイチロー。その打撃スキルは、「ステロイド時代」と揶揄されたMLBにおいて異質なものだった。(C)Getty Images

 この時、日本では「イチローがメジャーに『正しい野球』を復活させた」かのように受け止める向きも少なくなかった。その後、06年と09年のワールド・ベースボール・クラシックでの日本の勝利も、スモールボールの賜物であったかのように喧伝されたのと同じ発想だろう。もしかしたら、本人にもそうした自負はあったかもしれない。

 イチローに対しては、アメリカの識者から「四球が少ないので、打率から想像するほどには出塁率が高くない」と指摘されることがあった。これは決して的外れではない。イチローは選球眼が悪いわけではないが、早いカウントから振る上に打てるゾーンも広く、さらにはコンタクト能力が高いので、必然的に三振も四球も少なくなる。

 しかし、イチローはそうした声に流されて、ボールを選び、長打を狙うようなバッティングを選ばなかった。仮にそうしていたら「数多くいる好打者の一人」として埋没しかねなかっただろう。自身の最大の武器であるバットコントロールを最も生かす方法でオンリーワンの存在となったのだから、その選択は間違っていなかった。

 一方、大谷はホームランしか狙っていないように思えるほど豪快なフルスイングを持ち味とする(たまにシフトの逆を突くバント安打を決めることもあるが)。今シーズンの全138安打のうち、二塁打26、三塁打8、本塁打46で長打は計80本。その割合は57.9%にも達し、イチローのキャリア通算(18.6%)の3倍以上になる。
 
 バットの芯で捉えた時の破壊力も段違いだ。スタットキャストの計測では、ハードヒット率、平均打球初速や最高速度、ホームランの平均と最長飛距離など、ほとんどの部門でMLBトップクラスに位置している。このような、特大アーチを連発して本塁打王争いに参戦する日本人打者が出現するなど、アメリカ人はもちろん、我々日本人でさえ誰も想像しなかったはずだ。

『スラッガー』15年7月号で、「なぜ日本人打者はメジャーで長打が打てないのか?」という記事が掲載された。そこで筆者は「いつか日本人打者が本塁打王争いに加わることだって、絶対にあり得ないとは言えない」とし、その候補として中田翔、柳田悠岐、筒香嘉智と並んで大谷の名を挙げた。

 とはいうものの、本当に大谷が50本近くもホームランを打てるとは思っていなかった。大谷はそのような、日本人自身が勝手に当てはめている「自己像」を覆した。それもまた、イチローがイメージとしても実体としても「ジャパニーズ・スタイル」の選手であったことと好対照を描く。

 一方で、パワー重視の力強いバッティングと引き替えに、大谷は打率を捨てる道を選んだ。これは現代MLBにおいて主流となっている打撃スタイルとも合致する。打率より重要なのは出塁率、そして長打率であり、多少ミートの確率は低くなっても長打を狙って強く振る方が、最終的には生産性が高くなる――との認識だ。
 
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