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MLB

イチローと大谷翔平。日本が生んだ2人の天才はいかにしてMLBの「頂点」を極めたのか?〈SLUGGER〉

出野哲也

2021.11.20

積極果敢なスイングであえなく三振を喫する。そんな場面も少なくなかった大谷だが、それは時代に沿ったスタイルでもあった。(C)Getty Images

積極果敢なスイングであえなく三振を喫する。そんな場面も少なくなかった大谷だが、それは時代に沿ったスタイルでもあった。(C)Getty Images

 打率が高くないだけでなく、大谷は三振も多い。189三振はリーグで4番目、空振り/スウィング率は35%近くに達し、MLB全体でも屈指の多さ。イチローは通算11.1%(※01年のみデータなし)だから、3倍以上も空振りしている計算になる。

 だが、アメリカでは三振の多さはほとんど問題視されていない。スタットキャストの導入で、長打が生まれやすい打球速度と角度が判明し、さらには高速カメラなどの機材を利用し、最適なスイングを研究、実践できるようにもなった。

 その結果として起きたのがフライボール革命であり、三振は長打の副産物であって何ら恥じるものではない、という価値観が定着したからだ。こうした考えは、もともとアメリカ以上に三振を嫌う日本でも徐々に広まっている。レイズなどで活躍した岩村明憲は大谷について「三振を恐れる教育を受けていない。自分たちは先輩から三振を減らせと言われることが多かったが、大谷は2ストライクになってからのスイングがあまり変わらない」と指摘している。

 このような趨勢を受け、近年、MLBでは「Three True Outcomes(TTO)」という指標が注目を集めている。TTOは「純然たる打席結果」というような意味で、具体的には本塁打と三振、四球を指す。「純然たる」というのは、相手守備などの影響を受けない結果であるところから来ている。

 昔から、常に一発狙いの打者に「ホームランか三振か」というフレーズがよく使われてきたが、今は「ホームランか四球か三振か」という打者が急増している。代表格がヤンキースのジョーイ・ギャロで、打率・199はリーグ最下位、38本塁打は9位タイ、111四球と213三振はいずれも1位。TTOは実に58.9%に達している。
 
 そして、このギャロに続いてMLB2位のTTOを記録しているのが他ならぬ大谷なのだ。その意味で、大谷を「現代MLBのトレンドを最も反映している打者」と呼ぶのは決して的外れではない。ちなみに、こうしたスタイルから最も縁遠かったイチローのTTOは17・2%で、空振り率と同じく大谷の約3分の1である。

 TTOが高いということは、グラウンド上でのアクションが減ることを意味する。近年、一部のファンからこの「アクションの減少」を理由に「ベースボールがつまらなくなった」という声が聞かれる。けれども、その理屈でいけば大谷は退屈な打者の代表となってしまう。

 よほどのへそ曲がりでもない限り、そんなことを言う者はいないだろう。イチローに代表されるプレースタイルを称賛し、パワー重視の野球を批判していた人たちにとっては、アメリカン・スタイルによる大谷の活躍は複雑な感情もあるのではないか。

 日米双方の球界をよく知る田口壮は、かつて「日本人でもメジャーで50本打てる可能性はある」としながらも「足の速い子どもに『三遊間に打って走りなさい』と指導している限り、そうした打者は出てこない」とも言っていた。
 
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