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プロ野球

“決死の継投”にここしかなかった「代打・川端」。20年ぶりの日本一を成し遂げた高津采配の妙【氏原英明の日本シリーズ「記者の目」】<SLUGGER>

氏原英明

2021.11.28

「俺は大丈夫」という指揮官からの信頼に応えるようにマクガフは圧巻の投球を披露した。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

「俺は大丈夫」という指揮官からの信頼に応えるようにマクガフは圧巻の投球を披露した。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)

 こういう展開になると難しいのが投手起用だ。
 
 勝ち越していれば「勝ち継投」を迷いなく選べるだろう。

 しかし、両者にはこの時点で差がつかなかった。シリーズはすでに6戦目。疲労もある中で、同点のシチュエーションで勝負手を打っていいかどうかは選択が難しいのだ。

 だが、高津監督は5回途中から決死の継投に入った。

 複数イニングを投げたスアレス、清水、マクガフの球数は30球を超えている。もし、7戦目があったなら、登板できたかどうかは判断が難しかっただろう。しかし、言い換えればこの継投は、そのまま高津監督の「勝利への執念」が現れたものだった。

 12回表、ヤクルトは最後の攻撃だったが、簡単に2死を取られた。だがこの後、1番の塩見が安打。これが大きかった。高津監督はここで、代走から途中出場の渡辺大樹に代打の切り札・川端慎吾を投入したのである。

 直後に相手投手の吉田凌が暴投。2死二塁となると、川端がレフト前に落としてこれが決勝点になった。

 やはりここの代打策は見事だった。後ろに山田哲人と村上宗隆が控えているからストライク勝負をしなければいけない。投手からすれば少しのミスも許されない状況だったのだ。高津監督の“代打の切り札”の投入はまさにここしかないというタイミングだった。

 川端は殊勲の一打をこう振り返っている。
 
「7回くらいからずっと準備していた。いつきてもいい用意していたので、最後の最後にいいところで回ってきてよかった。(代打で出た時は)ランナー一塁だったので、山田、村上と3、4番がいたので、後ろにつなごうと思って打席に入ったんですけど、ランナーが二塁になってくれて、いいところに落ちてくれた最高の結果になりました」

 12回裏はマクガフが一人の走者を出したものの、最後の打者をセカンドゴロに封じてゲームセット。マクガフの乱調から始まった日本シリーズは彼の手によって締め括られたのである。

 高津監督はこう振り返っている。

「勝つ気でみんなグラウンドに立ってくれたと思います。何とか打つほうも投げるほうもみんなでつないで、延長戦にはなりましたけど、何とか勝つことができました。ピッチャーに関しては高梨から始まり最後マクガフまでみんながそれぞれ持ち味をしっかり発揮して素晴らしい投球をしてくれたと思います」。

 振り返ってみると激闘続きの日本シリーズだった。

 高津監督は日本シリーズの初戦先発に高卒2年目の奥川恭伸を抜擢しながら、中6日では登板させなかった。これはシーズン中から続けている若い世代の将来を見据えた采配だった。一方、身体を守るばかりではなく、年数を重ねた投手たちには勝負所にどんどん注ぎ込んでいって勝利の執念を見せた。

 シーズンやシリーズを通して高津ヤクルトが見せた新旧の考えをミックスさせた戦い方はどの野球界の全てのカテゴリーへの大きなメッセージとなったことだろう。

 まさに、20年ぶりの日本一にふさわしいチームだった。

文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園という病』『甲子園は通過点です』(ともに新潮社)、『メジャーをかなえた雄星ノート』(文藝春秋社)では監修を務めた。

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