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MLB

【エンジェルスの失われた10年:中編】最大の課題だった先発投手の補強はいつもおざなりだった<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.04

 これ自体は致し方ないとしても、理解できないのは市場にまだリュ・ヒョンジン(現ブルージェイズ)らが残っていたにもかかわらず、方針転換してレンドーンとの契約に動いたことだ。オーナーのアート・モレノはレンドーン獲得後も「4、5番手ではなく、大きく貢献してくれる投手を探している」と語ったが、結局は前出のようにまさに「4、5番手」でお茶を濁して散々な結果となった。

 確かに、投手の長期契約は不良債権化するリスクが高いのは事実だ。だが、本当の実力者なら、少なくとも最初の数年は一流のパフォーマンスを期待できる。その後、怪我や衰えで成績が悪化すれば年俸は割高になるが、その頃にまた別の有力選手を補強すればいい。エンジェルスほどの資金力を誇るチームなら、このようにある程度の“死に金”をあらかじめ組み入れた上で、なおかつ競争力の高いロースターを構築することも十分できるはずだ。

 そもそも、契約後半になって成績が落ちるのは野手も同じ。アスレティックスやレイズのように大型FA補強そのものから背を向けるならともかく、先発投手にだけ出し渋るのは理屈に合わない。

 野手は採算度外視で大物をかき集め、弱点の先発投手は二線級ばかり。そんな補強を繰り返した結果、チームの年俸構成はかなり歪な形になった。21年開幕時点のエンジェルスの野手年俸トップ5には、3545万ドルのトラウトを筆頭に、プーホルス、レンドーン、アップトンと2000万ドルプレーヤーが4人。この4人だけで約1億2000万ドルに達し、チーム全体の約3分の2を占めている。
 
 一方、投手は1000万ドルを超えているのがアレックス・カッブだけだった。しかもカッブの場合、1000万ドルは古巣のオリオールズが払っていた。年俸が必ずしも選手の実力を正確に反映しているわけではないとはいえ、これだけ偏った編成では、やはり勝つのは難しい。

 今年のドラフトで、エンジェルスは何と1~20巡目ですべて投手を指名するという前代未聞の奇策に出た。このような、ある意味で掟破りとも言えるドラフトを展開したことは、いかに投手の育成が上手くいっていないかを如実に示している。

 今から5年前の16年8月、『CBSスポーツ』に「エンジェルスが球界で最も絶望的なフランチャイズに思える6つの理由」と題する記事が掲載された。そこではすでに、大型補強やドラフトの失敗、若手投手の故障禍などが指摘されていた。

 ある程度の知識を持っている者にとっては、エンジェルスの問題点はかなり前から明らかだった。にもかかわらず、歴代のGMたちはなぜ軌道修正できなかったのか。端的に言えば、合理的な意思決定のプロセスが機能していないからだ。
※後編に続く

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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