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MLB

【エンジェルスの失われた10年:後編】ワンマンオーナーに旧時代の名将…2人のカリスマが組織を停滞させた<SLUGGER>

久保田市郎(SLUGGER編集長)

2022.01.04

剛腕オーナーのモレノ(右)と“名将”ソーシア(左)。00年代ならば2人の組み合わせも功を奏していたが……。(C)Getty Images

剛腕オーナーのモレノ(右)と“名将”ソーシア(左)。00年代ならば2人の組み合わせも功を奏していたが……。(C)Getty Images

「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた――。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

 00年代初頭からの約20年間、エンジェルスは2人の〝カリスマ〞が率いるチームだった。00年から18年間指揮を執ったソーシア監督と、03年にチームを買収してオーナーに就任したモレノだ。

 前述したように、ソーシアは02年にチームを初の世界一に導き、一時は名将の名を欲しいままにしていた。モレノはMLB史上初のヒスパニック系オーナーで、豊富な資金力を背景に就任直後から積極補強をサポート。一方で、エンジェル・スタジアムのビール代を値下げするなどファン目線に立った施策を打ち出し、「球界最高のオーナー」と呼ばれたこともあった。

 だが、そのカリスマ性ゆえか、2人は次第に時代に取り残された存在となっていく。

 10年代に入り、MLBはそれまで以上にデータ分析が重視されるようになった。セイバーメトリクスの浸透に加え、スタットキャストなどのトラッキングデータも普及。これらの膨大なデータをいかに活用するかが、チームの成功を左右するようになった。これに伴い、チーム作りの主導権もフロントが握るようになった。
 
 だが、ソーシア監督は、GMの下でぬくぬくと甘んじるような男ではなかった。特に、11年10月に就任したディポートGMとは事あるごとに衝突した。原因は、セイバーメトリクスを重視するディポートGMとの意見の相違と言われる。フロントから渡されたデータをまったく活用しようとしないソーシア監督に、ディポートGMが激怒して食ってかかったこともあった。

 だが、世界一経験のある監督と、新人GMでは明らかに分が悪い。15年7月、愛想を尽かしたディポートGMは突如辞任した。前年に地区優勝を果たしたチームのGMがシーズン途中に自ら辞任ずるのは極めて異例のことだ。現在、ディポートはマリナーズのGMを務めているが、エンジェルス時代にGM補佐だったスコット・サーバイスを監督に据えている。GMと監督が一枚岩であることの重要性を、エンジェルスでの経験で痛いほど認識しているからだろう。

 今も、エンジェルスのデータ分析部門は他球団と比べて一歩も二歩も遅れていると言われる。確かに、エンジェルスは埋もれた才能を発掘したり、無名だった選手を変身させたりする例が他球団に比べて明らかに少ない。前述した中堅レベルの先発投手補強の失敗も含め、データ分析面の立ち遅れがチーム停滞の一因であることは疑う余地がない。
 

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