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プロ野球

追い込まれた藤浪晋太郎が“エゴ”を貫く理由。苦境でも忘れなかった「野球やっているなかで気持ちのいい瞬間」

チャリコ遠藤

2022.01.27

 もともと四隅に投げ分けるような精密機械タイプではない。制球はややアバウトでも、ゾーンに投げ込めば、圧倒的な球威の直球と鋭く曲がるカットボールで抑え込める。それがかつての藤浪の必勝スタイルだった。

 近年は大きくゾーンを外れるボールの割合が増えて球数がかさみ、自らの首を絞めていくのが典型パターンだ。ゆえに過去3年間、1軍ベンチから藤浪を見つめてきた矢野燿大監督は新シーズンへ向けて変化球の安定性を求める。

「一番の武器はやっぱり速い真っすぐ。それはこれからも生かしていけば良い。でも、そこに対する変化球の安定感」

 そのうえで、指揮官は偶然性を排除したアウトの量産もカギと見ている。

「もったいない四球の方が多い。ゴロを打たせる、フライを打たせるという意図したアウトが増えてこないと。自分が思ったアウトと違うっていうことは勝つピッチャーにはやっぱり少ない」
 

 当然ながら、課題克服へ本人も動いている。普段から勉強熱心な藤浪のオフは、様々な場所へ“出稽古”へ向かうのが恒例だ。今オフは巨人の菅野智之に弟子入りを志願して1月上旬から約10日間、宮古島で汗を流した。

「(菅野から学びたいのは)やっぱり再現性。日本で一番と言っていいほど再現性の高い投球スタイル、安定感のある投球スタイル。自分に一番欠けているところ」と話す藤浪は、菅野から軸となる右足が「つぶれないよう」意識する助言を受けた。フォームの再現性を高めれば、直球、変化球ともに、おのずと安定感は向上する。

 これは今年に限ったことでなく、ここ数年の復活を阻んできた難題だが、本人は「ブルペンに入るのが楽しみというぐらいにはなってきてる」という手応えをもとに、揺るぎないフォームの構築に臨んでいる。

 来るキャンプでは、主力選手のようにマイペース調整を許されるわけではなく、早い段階から実戦に投入され、ふるいにかけられる。沖縄はシーズンへの準備期間ではなく、スタートから勝負をかける舞台だ。無論、チャンスを逃せば、容赦なくライバルたちが奪い取っていく世界にいることは自覚している。

 そんな藤浪を突き動かすのは、何度も味わったあの快感。それが「エゴ」の正体でもある。

「中継ぎのホールドシチュエーションでも投げさせてもらったこともありましたし、魅力的な仕事だと思うんですけど、それ以上に先発での勝ちというのが自分のなかでは……快感って言ったらちょっとダサい感じにはなりますけど、一番自分が野球やっているなかで気持ちのいい瞬間。先発で勝利するということに拘りたい」

 まっさらなマウンドで藤浪晋太郎が仁王立ちする姿を今年は何度見られるか。ファンも待ち望む甲子園の「絶景」を背番号19はその手で取り戻す覚悟だ。

取材・文●チャリコ遠藤

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