専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
MLB

95年のMLBストライキで「スト破り」の汚名を着せられた代替選手たちの悲劇【ダークサイドMLB】<SLUGGER>

出野哲也

2022.02.20

 代替選手の質も低く、タイガースのスパーキー・アンダーソン監督は「こんな連中で開幕したら野球に泥を塗る」と指揮を執ることを拒否した。開幕日が近づくにつれ、ストライキに対する世間のムードが「反発」から「無視」へ変わってきたことにも、労使双方が危機感を抱き始めた。

 3月31日、のちの連邦最高裁判事であるニューヨーク地裁のソニア・ソトマヨル判事が、旧労使協約での開幕を勧告すると、選手会はこれを受け入れた。232日間に及んだストライキは終結し、代替選手は用なしとなってマイナーや本来の職場へ帰っていった。

「百万長者と億万長者の喧嘩」に辟易していたファンは、戻ってきたメジャーリーガーたちにブーイングを浴びせた。いざ開幕しても観客の出足は鈍く、動員数は前年に比べて1試合平均6000人以上も減った。球団別でも増加していたのは3球団のみ。ルーキーの野茂英雄が大活躍したドジャースも、リプケンの記録達成で大いに盛り上がったはずのオリオールズでさえもダウンしていた。

 しかし、時が経つうちにそうしたことも忘れられ、MLBは元の姿を取り戻した。ただし、代替選手だけは例外だった。マイナーでも彼らは〝スト破り〞として白い目で見られ、その後メジャーに昇格しても、正式な選手会の一員にはなれなかった。年俸調停の権利は認められ、年金も受け取ることはできたものの、ライセンス契約による数万ドル単位の収入は得られず、ゲームにも変名で登場している。

 NBCのキャスター、ボブ・コスタスは嘲りを込めてこのように言っている。「薬物中毒者も、家庭内暴力を振るう者も、怠け者でも弱虫でも、メジャーリーグのクラブハウスでは許容される。それでも代替選手だけは、伝染病患者のごとく避けられる」
 
 代替選手で最初にメジャーへ昇格したのは、前述したレッドソックスのメイヘイで、5月21日に昇格して5試合に出場した。なお当時は外野手だったメイヘイは、のちに投手に転向して514試合に投げている。

 8月29日にはドジャースのマイク・ブッシュが昇格した。前年3Aで27本塁打を放っていたブッシュは、ドジャースの求めに応じてキャンプに参加したが「そのせいで、俺たちはすごく厳しい状況に追い込まれてしまった。レギュラーシーズンではなくキャンプだけという約束だったのに」。

 ドジャースナインの彼に対する態度は冷淡そのもので、選手会長のブレット・バトラーは彼の家族までも厳しく批判。誰もキャッチボールの相手をせず、内野ゴロのノックを受ける時も一塁に誰も立たなかったので、送球練習ができなかった。

 このような恥ずべき振る舞いにファンは憤った。30日のメッツ戦、ドジャー・スタジアムに集まった4万人を超える観衆は、9回裏に代打で登場したブッシュをスタンディング・オベーションで迎えた。一方、バトラーは猛烈なブーイングの的になった。あまりの反感の強さに恐れをなしたバトラーは、翌日ブッシュと話し合い、ともに記者会見に臨んで「ドジャースのユニフォームを着ている間は仲間として扱う」と約束した。

「ロサンゼルスのファンは、毎日のように励ましの手紙を書いてくれた」とブッシュは感謝している。10月1日のパドレス戦では、地区優勝を決める決勝3ランでヒーローになった。だが、それでもポストシーズンのロースターには入れなかった。ドジャースの面々は「仲間」がポストシーズンのボーナス1万ドルを受け取るのを許さなかったのだ。
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号