その後を継いだ富井翼が逆転を許さず試合は膠着したが、9回裏には2死二塁のピンチを招くと、富井を左翼に回して、先発・洗平比の兄でエースの洗平歩人を投入した。力でねじ伏せに行き、センターフライに抑えたあたりは的確な采配だったと言える。
しかし10回裏、再びマウンドに戻った富井が力尽きた。先頭の有馬に左中間を破る三塁打を打たれると、6番・市橋を申告敬遠の後、7番の美濃にセンター前へのタイムリーを浴びて試合は決した。
富井を再びマウンドに戻した決断を尋ねられた仲井監督は、こう振り返った。
「5人のピッチャーをすべて投入していましたので、試合がもつれて弾が尽きてしまうというようなことだけはないようにと思いまして、戻したんです。ボールの力は洗平歩にあるんですが、やや安定感に欠けるところもあるので、先頭打者を出したくないという思いから富井にしたんですが、結果スリーベースを打たれてしまった。私の采配ミス、それに尽きると思います」
仲井監督は自らを責めたが、これは結果論に過ぎない。
投手5人を継投するのは奇抜な戦略かもしれない。しかし、昨今言われている選手の健康問題だけでなく、パフォーマンスをより高いところで維持しようと考えれば、至極納得の策である。
投手を交代させることにはリスクもあるが、それを恐れている限り、実戦に耐えるだけの投手を複数育成することはできないだろう。それだけの投手を育て上げたこと、“5人継投”に挑戦したことは、ある一定の評価を与えていいのではないか。むしろ、いまだにエースへ依存するばかりの指揮官の方が、時代に取り残されれているといえる。
仲井監督に尋ねてみた。
“5人継投”の難しさ、そして、この挑戦への継続についてだ。
仲井監督は自信を深めた表情でこう答えた。
「普通に自分たちの力を出し切るということがやっぱり難しい。甲子園というのはそういう場所なんだなと改めて感じました。ただ、選手を信じて起用をしていくしかないとも改めて感じました。(選手たちの)技術以上に気持ちのところ、たとえばもう少し私の声かけがしっかりできていたら、違う結果になっていたのかなと思います。継投は確かに難しいんですが、(夏の甲子園は)暑いですし、打撃力も向上しています。怖がらないことで成功したところもありましたので、みんな力を合わせて戦い抜くという方向性は、今後も作っていきたいなと思います」
八戸学院光星は過去、夏に2度の準優勝経験がある。その頃の投手起用は多くて2、3人。今夏こそならなかったが、新たに見つけた“5人継投”のスタイルが完成すれば、悲願の全国制覇を大きく手繰り寄せる一歩になるかもしれない。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
しかし10回裏、再びマウンドに戻った富井が力尽きた。先頭の有馬に左中間を破る三塁打を打たれると、6番・市橋を申告敬遠の後、7番の美濃にセンター前へのタイムリーを浴びて試合は決した。
富井を再びマウンドに戻した決断を尋ねられた仲井監督は、こう振り返った。
「5人のピッチャーをすべて投入していましたので、試合がもつれて弾が尽きてしまうというようなことだけはないようにと思いまして、戻したんです。ボールの力は洗平歩にあるんですが、やや安定感に欠けるところもあるので、先頭打者を出したくないという思いから富井にしたんですが、結果スリーベースを打たれてしまった。私の采配ミス、それに尽きると思います」
仲井監督は自らを責めたが、これは結果論に過ぎない。
投手5人を継投するのは奇抜な戦略かもしれない。しかし、昨今言われている選手の健康問題だけでなく、パフォーマンスをより高いところで維持しようと考えれば、至極納得の策である。
投手を交代させることにはリスクもあるが、それを恐れている限り、実戦に耐えるだけの投手を複数育成することはできないだろう。それだけの投手を育て上げたこと、“5人継投”に挑戦したことは、ある一定の評価を与えていいのではないか。むしろ、いまだにエースへ依存するばかりの指揮官の方が、時代に取り残されれているといえる。
仲井監督に尋ねてみた。
“5人継投”の難しさ、そして、この挑戦への継続についてだ。
仲井監督は自信を深めた表情でこう答えた。
「普通に自分たちの力を出し切るということがやっぱり難しい。甲子園というのはそういう場所なんだなと改めて感じました。ただ、選手を信じて起用をしていくしかないとも改めて感じました。(選手たちの)技術以上に気持ちのところ、たとえばもう少し私の声かけがしっかりできていたら、違う結果になっていたのかなと思います。継投は確かに難しいんですが、(夏の甲子園は)暑いですし、打撃力も向上しています。怖がらないことで成功したところもありましたので、みんな力を合わせて戦い抜くという方向性は、今後も作っていきたいなと思います」
八戸学院光星は過去、夏に2度の準優勝経験がある。その頃の投手起用は多くて2、3人。今夏こそならなかったが、新たに見つけた“5人継投”のスタイルが完成すれば、悲願の全国制覇を大きく手繰り寄せる一歩になるかもしれない。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。