試合は2回表、海星が幸先よく先制した。2死から平尾幸志郎が四球で出塁。すかさず盗塁を決めて二塁に進んだあと、7番・牧真測にライト前へのタイムリーが出たのだ。「相手がうちを追いかける展開にしたい」という加藤監督の思惑通り、理想的な先制攻撃だった。
ところが3回裏、海星自慢の守備に綻びが出る。
1死から四球の後、三塁前に転がったワンバウンドの打球を処理した田川一心が一塁への悪送球。一塁走者の本塁生還まで許してしまった。
加藤監督は言う。
「もちろんエラーをした後も粘らなくてはいけないんでしょうけど、やっぱりうちがこの試合をとるとしたらノーエラーで、点を取られたとしても打たれただけの失点にする。そういう形にしての2対1か、1対0しかない。それなのに、打たれてもないのに相手に点を取られたのは、向こうに精神的な楽を与え、こちらはすごく後ろめたさがある中で野球するような状況になったと思います」
5回裏には勝ち越しを許すなど、“後ろめたい展開”はその後も引きずってしまった。
加藤監督からすれば、7回裏の2死満塁のピンチで山田を迎えるシチューエーションは、3回の守備の綻びからすべてつながっていたというわけである。
確かに、ここを抑えるのは至難の業だった。
だからこそ、エースの宮原に託すしかなかったというのは分かる。
とはいえ、この場面で結果を残す山田も凄まじい。
本人がこの打席を振り返ったが、アプローチのレベルの高さが感じられた。
「前の打席で、僕は宮原くんのスライダーで三振をしていたんです。だから、(この打席も)スライダーから入ってくるだろうなと思ってました。その中で2球、スライダーがボールになったんで、ストライクを取りに来るのだろうなと。ストレートに張ってました」
海星ベンチの思惑を超越した、千両役者による値千金のホームランだった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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ところが3回裏、海星自慢の守備に綻びが出る。
1死から四球の後、三塁前に転がったワンバウンドの打球を処理した田川一心が一塁への悪送球。一塁走者の本塁生還まで許してしまった。
加藤監督は言う。
「もちろんエラーをした後も粘らなくてはいけないんでしょうけど、やっぱりうちがこの試合をとるとしたらノーエラーで、点を取られたとしても打たれただけの失点にする。そういう形にしての2対1か、1対0しかない。それなのに、打たれてもないのに相手に点を取られたのは、向こうに精神的な楽を与え、こちらはすごく後ろめたさがある中で野球するような状況になったと思います」
5回裏には勝ち越しを許すなど、“後ろめたい展開”はその後も引きずってしまった。
加藤監督からすれば、7回裏の2死満塁のピンチで山田を迎えるシチューエーションは、3回の守備の綻びからすべてつながっていたというわけである。
確かに、ここを抑えるのは至難の業だった。
だからこそ、エースの宮原に託すしかなかったというのは分かる。
とはいえ、この場面で結果を残す山田も凄まじい。
本人がこの打席を振り返ったが、アプローチのレベルの高さが感じられた。
「前の打席で、僕は宮原くんのスライダーで三振をしていたんです。だから、(この打席も)スライダーから入ってくるだろうなと思ってました。その中で2球、スライダーがボールになったんで、ストライクを取りに来るのだろうなと。ストレートに張ってました」
海星ベンチの思惑を超越した、千両役者による値千金のホームランだった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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