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プロ野球

甘い球を逃さなかったオスナと、難しい球を狙いに行った杉本。日本シリーズ第1戦の勝負を分けた“5番の差”

氏原英明

2022.10.23

 何度も言うように、この試合は村上以外の打者の奮闘が分けた試合だった。

 オリックスの攻撃も悪くはなかったし、やはり、主砲・吉田正尚は怖い存在だった。しかし、ヤクルト打線と異なっていたのは5番打者・杉本裕太郎の出来だった。ヤクルトと同じように回ってきた好機で、杉本はことごとく凡打に終わったのである。

 9回表の攻撃では1死から3番の中川圭太がレフト前ヒットで出塁。吉田が四球で繋いで杉本に打席を回したが、インコースのストレートに振り遅れて空振り三振。オスナのように、4番を援護することができなかった。

 いわば、5番の勝負強さが試合を分けたと言ってもよかった。

 2人の違いは「難しい球」を狙いに行ったか、「甘い球」を狙いに行ったかに過ぎない。

 オスナはヒーローインタビューでこう答えている。
 
「この数ヶ月ずっと調子がいい。とにかく甘い球を待って狙いを絞ってそこまで追いかけない意識でいます」

 1回のタイムリーは浮いたカーブを狙ったものだったし、4回裏の本塁打はカットボールが抜けたのを完璧に打ち返した“確信歩き”の一発だった。
 
 これは、甘い球を逃さない練習をしてきた賜物だろう。試合前の打撃練習でも、オスナは快音を響かせていた。山田哲人や村上宗隆が悩みながらスイングする中で、オスナは打ち損じがなかった。集中力が高く、「1球も打ち損じをしない」という意識の高さが感じられた。それが打席の集中力を生んでいたのだろう。

 一方、杉本は昨年の結果を引きずっているように思う。2021年の日本シリーズに、杉本はパ・リーグの本塁打王として臨んだが、インコースの弱点をさらけ出し、持ち前のパワーを発揮することができなかったのだ。

 今日の試合の2三振も、インコースを攻められたものだった。天を仰ぐ杉本の姿からは「インコースを打たないといけない」と難しいボールへの意識が高まっているような印象だった。

 とはいえ、シリーズはこれからも続いていく。ヤクルトには村上の後ろにオスナがいるのに、オリックスには吉田の後に誰もいないという状況を作っていては、これからも両者の力関係は変わらない。どこかで打開しなければいけない、

 杉本がインコースへの課題があることと、5番打者として結果を残さなければいけないという課題は別問題だ。これを本人、そしてチームがどう考えるかはこれからのシリーズに大きな意味を持つだろう。

 杉本が乗り越えるのか、それとも、中嶋聡監督が手を打つのか。

 5番打者が勝負を分けた第1戦。今後の試合でも大きなポイントになりそうだ。

文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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