80年オフには、同地区のライバルであるカーディナルスのGM兼監督だったホワイティ・ハーゾグ(後に殿堂入り)の要請で電撃トレード。UPI通信社は、「スーターの右腕は、ゲートウェイアーチやオペラハウスに匹敵するセントルイスが誇る資産だ」と報じた。
そして、カーディナルスは82年に15年ぶりの世界一に輝く。地区優勝を決めた試合、ナ・リーグ優勝決定シリーズを制した試合、そしてワールドシリーズ第7戦で試合を締めたのは、すべてスーターだった。
スーターは“ミスター・オールスター”でもあった。77年&78年は2年連続で勝利投手、80年&81年は史上初めて連続でセーブを挙げた。6度出場して通算6.2回を無失点に抑えている。
全盛期のスーターのスプリッターは、まさにアンヒッタブルだった。当時何度も対戦したナ・リーグ屈指の強打者ゲリー・マシューズは、「見送ればストライクを取られ、振れば空振り。もうお手上げだったよ」と述懐している。後年の殿堂入りスピーチで、スーターも「私をここ(クーパーズタウン)に連れて来てくれたのはスプリッター。他の球種はせいぜい2Aレベルだった」と語っている。
ベースボールの機微を描いた名著『Men at work』(邦題:『野球術』)で、著者のジョージ・F・ウィルは、「ピッチャーに言わせると、この球を投げるのはセックスみたいなものだそうだ」と記した。ストンと落ちれば三振が取れ、あまり落ちなくてもボールの上っ面を打たせてゴロアウトが取れるため、「うまくいった時は最高だし、あまりうまくいかなかった時でも悪くはない」のが共通点だという。スーターの場合は、ほとんどの場合「うまくいって最高」の結果だったようだが。
当時のリリーフ投手はどちらかと言えば投球術で打ち取る技巧派タイプが多かったが、スーターはそうではなかった。相手打者を圧倒して打ち取るという点では、現在のクローザー像のはしりだったと言えなくもない。
2006年、スーターは殿堂入りした。メジャーで一度も先発経験がない投手としては初めての快挙だったが、実働期間が12年と短かったことや、そもそもリリーバーは先発型にくらべ投球回が少ないことなどにより、どれだけ勝利に貢献したかを示す総合指標WARは、通算で24.5(Baseball-Reference版)でしかない。近年選出される者は概ね50以上を記録していることからすると、意外なほど低成績だ。
しかし、前述のように球宴やポストシーズンでの神がかり的な活躍など、残した印象は強烈だった。過大評価だったのではなく、万能視されるWARですらまだ評価しきれない部分があるということだろう。スーターの全盛期、その圧巻のパフォーマンスを目の当たりにしたファンは、これからもその雄姿を忘れることはないだろう。
文●豊浦彰太郎
【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。
そして、カーディナルスは82年に15年ぶりの世界一に輝く。地区優勝を決めた試合、ナ・リーグ優勝決定シリーズを制した試合、そしてワールドシリーズ第7戦で試合を締めたのは、すべてスーターだった。
スーターは“ミスター・オールスター”でもあった。77年&78年は2年連続で勝利投手、80年&81年は史上初めて連続でセーブを挙げた。6度出場して通算6.2回を無失点に抑えている。
全盛期のスーターのスプリッターは、まさにアンヒッタブルだった。当時何度も対戦したナ・リーグ屈指の強打者ゲリー・マシューズは、「見送ればストライクを取られ、振れば空振り。もうお手上げだったよ」と述懐している。後年の殿堂入りスピーチで、スーターも「私をここ(クーパーズタウン)に連れて来てくれたのはスプリッター。他の球種はせいぜい2Aレベルだった」と語っている。
ベースボールの機微を描いた名著『Men at work』(邦題:『野球術』)で、著者のジョージ・F・ウィルは、「ピッチャーに言わせると、この球を投げるのはセックスみたいなものだそうだ」と記した。ストンと落ちれば三振が取れ、あまり落ちなくてもボールの上っ面を打たせてゴロアウトが取れるため、「うまくいった時は最高だし、あまりうまくいかなかった時でも悪くはない」のが共通点だという。スーターの場合は、ほとんどの場合「うまくいって最高」の結果だったようだが。
当時のリリーフ投手はどちらかと言えば投球術で打ち取る技巧派タイプが多かったが、スーターはそうではなかった。相手打者を圧倒して打ち取るという点では、現在のクローザー像のはしりだったと言えなくもない。
2006年、スーターは殿堂入りした。メジャーで一度も先発経験がない投手としては初めての快挙だったが、実働期間が12年と短かったことや、そもそもリリーバーは先発型にくらべ投球回が少ないことなどにより、どれだけ勝利に貢献したかを示す総合指標WARは、通算で24.5(Baseball-Reference版)でしかない。近年選出される者は概ね50以上を記録していることからすると、意外なほど低成績だ。
しかし、前述のように球宴やポストシーズンでの神がかり的な活躍など、残した印象は強烈だった。過大評価だったのではなく、万能視されるWARですらまだ評価しきれない部分があるということだろう。スーターの全盛期、その圧巻のパフォーマンスを目の当たりにしたファンは、これからもその雄姿を忘れることはないだろう。
文●豊浦彰太郎
【著者プロフィール】
北米61球場を訪れ、北京、台湾、シドニー、メキシコ、ロンドンでもメジャーを観戦。ただし、会社勤めの悲しさで球宴とポストシーズンは未経験。好きな街はデトロイト、球場はドジャー・スタジアム、選手はレジー・ジャクソン。