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MLB

目指すは岩隈久志の成功パターン。アスレティックス入りした藤浪晋太郎の「単年契約ならではの強み」<SLUGGER>

ナガオ勝司

2023.01.19

 当時から、誰がどう見たって安価な契約に思えたが、開幕メジャーを勝ち取ったものの先発ローテーションには入れず、4月20日まで登板が一度もなかったことで、一時は「飼い殺し」も同然の状態だった。

 ところが、救援投手として徐々に結果を残し、7月2日にメジャー初先発(この日はイチローと川崎宗則も同時に先発出場した)。後半戦は好投に次ぐ好投の連続で、最終的に30試合(16先発&125.1イニング)に登板し、9勝5敗、防御率3.41の好成績を収めた。

 そこで勝ち取ったのが、同年オフの2年1400万ドルの好条件であり、それは彼が単年契約だったからこそ可能だったことでもある。

 もちろん、藤浪がメジャーに適応できず、成績が残せなければ、先発どころか救援投手としても起用が難しい立場になる。

 だが、そうなった時こそ、単年契約の強みが出る。
 結果が残せないことで首脳陣からの信頼が急落し、先発だろうが救援だろうが、起用されることが少なくなれば、たとえメジャーにいても「飼い殺し」に等しくなる。マイナー降格ともなれば、さらに立場は厳しくなる。そこで「今季はダメだ」と踏ん切りをつけられるのは単年契約だからこそ。さらに「来季はどうするのか?」となった時に頼りになるのも、球団に長く拘束される複数年契約ではなく、単年契約なのだ。

 読者の中には、「メジャーがダメなら日本復帰」という選択を良しとしない人もいるだろうが、「プロ野球選手」を一つの職業と捉えれば、選択肢は多い方がいい。「メジャーの他球団でやり直す」も良し、「日本に復帰する」のも良しである。

 もう一つ付け加えておきたいのは、一見、大型契約に思える吉田や千賀の複数契約も、メジャーリーグ全体ではそれほど驚くような高額ではなく、吉田や千賀が活躍すればするほど、球団に取ってはむしろお買い得な「バーゲン契約」になる可能性があるいうことだ。

 結局のところ、我々日本のメディアは、今もまだMLBとNPBの経営規模の違い、年俸格差についていけずに、ただただ目先の金額に驚いているばかりなのだ。そして、そういう恐るべき格差があるからこそ、村上宗隆(ヤクルト)や佐々木朗希(ロッテ)らにとって、MLBは今も「一攫千金」を狙える市場を持っているということなのである。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
 

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