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プロ野球

川相昌弘が殿堂入り投票で野村謙二郎、石井琢朗より多く票を得る不条理。再考するべき「犠打世界記録」の価値<SLUGGER>

出野哲也

2023.01.19

 ベーブ・ルース登場以前は、メジャーでもバントは多用され、“賢い”作戦だと見なされていた。コリンズもその時代の選手である。しかしボールが飛ぶようになり、長打力のある打者が増えるにつれ、その数は減っていった。21世紀に入るとバントの非効率性がデータで立証され、衰退に拍車がかかった。

 昔の日本では、体格的に長打があまり出なかったので、走者を得点圏に進める効果はあった。今でも高校野球でバントが多いのも同じ理由で、自己犠牲を尊ぶ日本人の精神性にも合っているのだろう。

 しかし、プロ野球でもいまだにそうした理屈がまかり通っているのは、単にそれが“セオリー”だと信じ込んでいるだけではないのか。そもそも犠打とは、普通に打たせても安打が期待できない打者に与えられる作戦である。大谷翔平や村上宗隆には、どんな場面であろうとバントなどさせるわけがない。

 川相自身、もっと打てる選手だったら世界記録になるほどバントは命じられなかったはずで、そうだったら殿堂の票数はずっと少なかったと思われる。これはどう見ても矛盾だ。バントに一切価値がないわけではないが、殿堂の投票者たちは明らかに過大評価している。「世界記録」という言葉の響きに惑わされ、その意味までは考えていないのではないか。
 今回の投票では他にも腑に落ちない点があった。アレックス・ラミレスが290票で当選したのに、同じく2度のMVPに輝き、通算成績も上回る松中信彦(75票)や小笠原道大(38票)は、はるかに票数が少なかった。小笠原、稲葉篤紀(63票)、前田智徳(36票)、小久保裕紀(32票)も、ラミレスと同様に2000安打を達成しているのに、得票数が伸びていない。

 これもラミレスが「外国人打者初の2000安打」を達成したからではないだろうか。それ自体は偉大な業績ではあるものの、日本人の2000安打達成者を同等に評価しない理由にはならない。

 川相やラミレスが殿堂にふさわしくない、と言っているのではない。だが、川相に投票するなら野村や石井、ラミレスを選ぶなら松中や小笠原にも目を向けるべきだろう。ベストナインやゴールデン・グラブでふざけ半分の票を投じる記者は言語道断だが、「しっかり考えて」このような結果になるのだとしたら、それはそれで大きな問題だ。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
 

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