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侍ジャパン

【WBC】「監督とは“人生かし”」――選手の個性を信じ、ともに物語を紡ぎ上げる栗山英樹監督の哲学<SLUGGER>

氏原英明

2023.02.27

 一方、しばしば日本球界の常識を覆すような用兵を繰り出すのも栗山監督の特徴かもしれない。

「1番投手・大谷」はもちろん、クローザーだった増井浩俊をシーズン途中から先発に転向させたこともあった。

「みんながいう野球のセオリーってなんなの? って思います。例えば、100年後のプロ野球って、考えても想像できないかもしれないけど、もしかしたら今は考えられないことがその頃には当たり前になっているかもしれないわけじゃないですか。だから、僕の采配が『セオリーを度外視している』って言われても、その質問すら愚問にも思えてくるんだよね」

 突飛なアイデアを実行するだけでなく、データを基にして思いきった手を打つこともあった。日本ハム監督時代の晩年に見せた、強打者を相手にした時の外野4人シフトは、MLBのトレンドを取り入れた采配だった。

 感覚や経験論だけでなく、データの力も借りながら、ことごとく「常識」を破ってきたのが栗山監督だった。

 今回も、史上初めて日本国籍ではない選手(ラーズ・ヌートバー)を侍ジャパンに招集した。この選出には一部で批判もあるが、侍ジャパンが新しい時代を迎えたことの象徴になることは間違いない。

 その他のメンバー選出にも、随所に栗山監督「らしさ」が垣間見える。「ストーリー」を持った選手への期待感がにじみ出ているように思えるのだ。
 昨季、育成選手からシンデレラのように現れた宇田川優希(オリックス)、高校時代はベンチメンバー外で、独立リーグからプロ入りして這い上がってきた湯浅克己(阪神)。コロナ禍で甲子園出場が絶たれた世代の代表として高橋宏斗(中日)が選出されていることも見逃せない。

 ダルビッシュ有(パドレス)や山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、村上宗隆(ヤクルト)といった新旧のスター選手に加えて、「何かを持った」選手の集まりに至った背景には試合に勝つだけではない、栗山監督らしさが垣間見える。

 かつて、大谷の二刀流について語った時の言葉が象徴的だ。

「翔平に結果が出てきて、僕は二刀流に関してこれで良かったのかなと思うことは日々あるんですけど、本当に良かったかどうかは翔平が引退する時にしか分からない気がするんですね。ただ、間違いないのは今の『大谷翔平を見てみたい』と思えるのは、二刀流であることが大きな理由であると僕は思うんです。漫画みたいな選手、『ドカベン』に出てくるような選手を作りたかった」

 選手の個性を信じ、人柄やたどってきた道のりも捉えながらともに物語を作り上げる。それが栗山監督の最大の特徴と言っていいだろう。

「選手の“らしさ”というのは、身体的な能力だったり、技術的な能力だったりもありますけど、ベースにあるのは人間だと思うんです。つまり、人なんです。人間力です。その人そのものを生かしてあげるというベースがあれば、何かが生まれると思っている。監督とは“人生かし”だと思っています」

 ベンチにふんぞり返って怒鳴り散らすのではなく、生徒たちを温かく見守る「先生」のように選手を生かす。そうして、栗山英樹監督は侍ジャパンを世界の頂点に導くのだろう。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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