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侍ジャパン

デグロムを超えて「世界に類のないピッチャー」になるために。山本由伸がWBCの先に見据える未来<SLUGGER>

中島大輔

2023.03.26

メッツ時代に2度のサイ・ヤング賞を獲得したデグロム。健康なら「地上最強」の投手であることは間違いない。(C)Getty Images

メッツ時代に2度のサイ・ヤング賞を獲得したデグロム。健康なら「地上最強」の投手であることは間違いない。(C)Getty Images

 矢田トレーナーは、理想的な投球方法についてこう説明している。

「投球の場合、ボールが力を受けて手から離れていこうとする際の力の伝わり方は、体幹の深層を中心にして、接地した前足からボールまでが、一本の青竹を強い力でしならせた状態で蓄えられたエネルギーが一気に解き放たれるように、大きな力がボールに伝わることが望ましい」

 山本の新たなフォームでは、左足の使い方が注目されている。日本では長らく「軸足に乗って力をためる」ことの重要性が説かれてきたが、要は身体の重心をコントロールしながら前方へいかに大きな力を発揮していけるかが大切になるわけだ。それができれば、必ずしも左足を上げて力をためる必要はない。

 矢田トレーナーは「一本の青竹を強い力でしならせる」と表現しているが、そのイメージを持って山本の投げ方を見ると、彼が意図するものがなんとなく浮かび上がってくるかもしれない。

 高卒5年目に初めての投手四冠(最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振)を獲得し、MVPと沢村賞も受賞した21年のシーズンオフ、今後目指す先について話を聞いた。その際、山本が“道標”として名前を出したのが、現役最強のジェイコブ・デグロム(現テキサス・レンジャーズ)だった。

「化けもんだなと思います。スピードもすごいですし、何かボールも普通じゃないですか。すごいなっていうか、こんな球を投げる人がいるんだっていう感じです」

 2度のサイ・ヤング賞に輝き、2021年に投じた4シームの平均球速は159.6キロ。まさに“異次元”の領域にいるデグロムは、浮き上がるような軌道も武器にしている。どうすれば、山本もそうした球を投げられるのか。矢田トレーナーはこう話した。
 
「デグロムも山本君みたいに(リリースまでの動きで)身体が伸びますよね。どれだけ勢いを伝えるかという投げ方で、同じことをやっているんです。ただし、山本君と大きく違うのはボールの離し方です。今後、山本君にもああいう変化するボールを投げてもらうためには、ちょっと時間がかかるけど、覚えてもらわなあかんという離し方なんですよ」

 ちょっと時間がかかるというのは、デグロムのようなリリースの仕方をするためには、それができるだけの身体が必要になるということだ。山本はそうした方向性を持ち、シーズン中から地道なトレーニングを重ねてきた。

 そうしてたどり着いたのが、左足を上げない投げ方だ。ただし、これが完成形ではなく、あくまで目指す先の過程にある姿だろう。

 当時23歳、高卒5年目にして日本のトップに立ったことについて、山本に尋ねた際の回答が強く印象に残っている。

「どうでしょうね。いい方向に来ているなとは思いますけど。正直、特に何もないです」

 言葉を発したニュアンスとしても、本当に何も感じていないようだった。おそらく自分の目指すものが明確に描かれているから、周囲の評価や批判を耳にしてもブレることがないのだろう。
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