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侍ジャパン

「人生の方が大事」絶不調でも際立ったダルビッシュ有にこそMVPを。“オープンマインド”で変えた代表の在り方

THE DIGEST編集部

2023.03.28

マウンド上では気迫あふれる姿も見せたダルビッシュ。そんな逞しいベテランの言葉を若手たちも熱心に聞き入った。写真:鈴木颯太朗

マウンド上では気迫あふれる姿も見せたダルビッシュ。そんな逞しいベテランの言葉を若手たちも熱心に聞き入った。写真:鈴木颯太朗

 ありとあらゆる面で選手たちと日本球界が発展するキッカケを植え付けたダルビッシュ。そんな彼の言動で、何よりも驚かされたのは「代表戦」に臨むマインドだ。

 これはオリンピック、はたまたサッカー中継による影響なのか。日本ではかねてから代表戦となると、「絶対に負けられない戦い」という意識が先行。選手たちに壮大なプレッシャーがかけられがちとなる。もっとも、その“煽り”によって注目度が増している影響はあるのだが、SNSが発展した近年はそれが過剰になっている傾向があったのも事実だ。

 そうしたなかで大会前から「戦争に行くわけじゃない」と公言していたダルビッシュは、WBCが始まってからも「野球なので。やっぱり小さいときから楽しそうだから始めたことだと思うし、そこの原点を分かってほしいなと思います。とにかく楽しくやるのが野球だと思います」と強調し続けた。

 もちろん、WBCを「国別対抗戦」と捉える彼にとって、やはり選手としてメジャーのレギュラーシーズンこそが最優先とするところ。さらに言えば、父親としての人生を考えた時には優先順位が低くなる。そうした考え方が「気負い過ぎ」という代表戦への発想に至らせた部分は大いにある。だが、それを実際に公言し、行動に移した影響は計り知れなかった。

 筆者には興味深く、忘れられない言葉がある。それは不振に喘いでいた村上宗隆(ヤクルト)に寄せられたものだった。
 
 1次ラウンドを終え、侍ジャパンの4番を務めていた村上は打率.143、ゼロ本塁打と低迷。史上最年少のNPB三冠王と期待されていたなかでの極度の不振により、周囲からは状態を不安視する厳しい声が聞こえてきていた。

 この極限状態で“逆風”を受けた村上の前に、いわば壁のように立って見せたのがダルビッシュだった。1次ラウンド最終戦のオーストラリア代表戦後にメディアの囲み取材に姿を現し、こう言ってのけたのである。

「それ(好不調があること)が野球なので。そんなことを気にしていても仕方ないですし、人生の方が大事ですから。野球ぐらいで落ち込む必要はない。自分も含めてですけど、休みもあると思うので、それ以外のことで、すごく楽しいことをしたり、美味しいご飯を食べたりして、リラックスしてほしい」

 思わず気おされるような気持になったのを覚えている。ここまでの発言をすれば、日本球界では「気が抜け過ぎだ」といった批判が起きてもおかしくはない。もちろん彼がメジャートップレベルの投手という実績を積んだからこそ説得力があるのだが、「野球ぐらい」と堂々と言える選手は今までいなかったのではないか。
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