専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
プロ野球

「球界最強のホームランバッター」から、「史上初の40代三冠王」へ。円熟した中村剛也に追ってほしい夢<SLUGGER>

氏原英明

2023.05.21

 3・4月は打率.364の高水準もさることながら、三振は10個しかない。過去の月間MVPの時はそれぞれ26三振と27三振を喫し、三振率は軒並み20%以上を記録しているのに。今季は13%程度だ。

 それは中村の言う「ヒットを打つことを考えたことがなかった」過去との違いと言える。

 とはいえ、ヒットに意識を移しただけで、これだけの成績を残すと言うのはただただ驚きしかない。

 それだけの好結果が生まれる背景には、やはり試合前のバッティング練習にある。ボールの角度を少し下げることがヒットを打つ時の意識だと語る中村は、練習では楽しそうにゲージの中でバットを振っている。

「昔とはやっていることは違いますね。今は(ショートを守る)滝沢のところに狙って打ったりして遊んでいますね」

 この言葉にも奥深さがある。

 日々の打撃練習を見ていれば分かるが、「滝沢のところに打つ」のはただの遊びではない。ショートに限らず、中村は守備練習でポジションについている選手のところを目がけて打っている。これは投手が投げているボールに対し、どうバットを出せばいいのかの確認作業だ。

 中村は言う。
 
「ポイントの確認っていうか。このポイントで打てばショートに行くし、もうちょっと前で打てばサードに行くしっていう、その確認ですね。狙って打つのであれば、このポイントにしないとそこにいかないということです。小手先でやるのではなくて、ポイントで飛ばすようにしています」

 遊んでいるようなルーティンの中で、試合中での対応力を鍛えている。もっとも、バッティング練習ではヒットを打つ練習ばかりをしているわけではなく、ホームランの意識もある。ホームスタジアムのゲージでは右側にいるときはほとんどホームランの角度を気にしてバットを振っている。これは過去の中村の姿と重なっている。

 ヒットに意識を持ちつつ、試合展開やチャンスと見たらホームランも狙う。いわば、かつてないほどの強打者に中村は39歳にして到達しているとも言える。

 そんな中村の姿を見ていると、ふとある人物の言葉を思い出した。

 その人物とは中村の高校時代の恩師・西谷浩一監督だった。

 ホームランキングを繰り返し獲っていた時、中村の話になると、西谷はこんな話をしていた。

「うちで言うと、平田(良介/元中日)や中田(翔/巨人)、浅村(栄斗/楽天)っていう右バッターのスラッガーとして注目されています。パワーだったら中田が一番とか、それぞれに持ち味はあると思うんですけど、技術は中村がダントツで抜けていましたね。バットに当てるのは本当に誰も真似できないものを持っていた。だから、僕は(中村が)首位打者のタイトルを取れる選手だと思うんですよね。今はチーム事情でホームランばかり狙っているから、率が低いけど、ヒットはいつでも打てる選手だと思うんですよね」

 この時、中村がいつか、バッティングの意識を「ホームラン」から「ヒット」に移す時が来るかも知れないと思った。そんな時に、また、新たな中村を見ることができるのではないかと。
 
NEXT
PAGE

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号