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プロ野球

「球界最強のホームランバッター」から、「史上初の40代三冠王」へ。円熟した中村剛也に追ってほしい夢<SLUGGER>

氏原英明

2023.05.21

 この話を中村に話してみた。

 そして、個人的には首位打者になる中村選手の姿も興味があるとも伝えてみた。

「まだ1ヶ月ですよ。何言ってんですか(笑)。まぁ、首位打者を取れる選手と仮説を立ててくれるのは好きにしてくださいってところですけど、自分の考えとしてはヒットも打ちたいし、ホームランも打ちたい。本当は両方を追いかけたいんですけど、僕の力的に狙ってできないんで、そういうふうにしている感じですね」

 謙虚に聞こえる言葉の裏には、「ヒットを打つようになったからといってホームランを捨てたわけではない」という強い意志も垣間見せる。事実、打席では「ホームランに意識を持つこともある」という。

 試合展開によって、必要な打撃をしているのが今の中村と言えるだろう。出塁が欲しい時は大きいのを狙わずに軽打を仕掛け、流れを変えたい時や試合を決めるシチュエーションであれば、かつてのようにホームランを狙う。

 5月12日の楽天戦では相手エースの田中将大から2試合連続の本塁打をマークした。無死一塁、ヒット狙いではダブルプレーになりかねない場面で高めのストレートを一閃、左中間スタンドに放り込んだのだった。

 この時の中村の意識もまた素晴らしい。
 
「そんなに意識を変えてはいなかったですけど、(田中投手の)クイックがめちゃめちゃ速かったんで、立ち遅れてはいけないなと思った中で対応したらホームランになったという感じですね。ただ、自分の中であのホームランは危ないなと思っています。高めの球に、ヘッドが合っているっていうのは、普通のストライクゾーンだったら、もっと前になっているってことじゃないですか。調整しないといけないなっていうホームランです」

 20年シーズン前、ある雑誌の「最強打者特集」でインタビューした時、中村は「僕は全然っす。ホームランと打点はそこそこですけど、他がダメっすからね」とかつてのスラッガーたちと並べられると見劣りすると語っていた。

 今や「最強打者」。まさにその道に向かっていると言えるのではないか。

 三振が減ってヒットが増えたが、ホームランの勢いはそのまま。その現状を見れば、新たにこういう仮説が成立するだろう。

 初の40代三冠王――。

 中村剛也に、そんな夢を追いたい。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 

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