7月12日、アナハイムに戻って最初のマリナーズ戦はスキャッグスの追悼試合として、選手全員が背番号45のユニフォームで臨んだ。トラウトが本塁打を含む6打点を挙げるなど、打線は13得点の大爆発。投げては先発のテイラー・コールが2回をパーフェクトに抑えると、2番手のフェリックス・ペーニャも7回で1四球を出したのみ。スキャッグスの両親とカーリが見つめる前で、継投ノーヒッターを達成した。
試合終了後には、全員が着ていたユニフォームをマウンド上に置いて、亡きチームメイトに捧げた。エンジェルスの球団史上でも、とりわけ感動的な場面となった。
だが、事態は予想外の進展を見せる。8月30日、検死の結果が「アルコールと複数の薬物に起因するもの」だと発表された。その薬物とは、いずれもオピオイドの一種であるオキシコドンとフェンタニル。オピオイドは、本来は鎮痛剤だが、近年アメリカでは過剰摂取による多数の死者が発生し、17年にはドナルド・トランプ大統領が非常事態宣言を発するに至ったくらい、深刻な社会問題となってる。スキャッグスの命を奪ったのは、ヘロインの50倍も強力で、わずかな量でも死をもたらすフェンタニルであったと結論づけられた。
さらなる衝撃は、その入手先が他ならぬエンジェルスの広報部長エリック・ケイだったことだ。スキャッグスとケイは何年もともに薬物を使っていて、その事実は他の職員も把握していた。テキサス遠征の直前にも、ケイは非正規ルートで入手した薬物をスキャッグスに手渡し、死の数時間前も服用している場面に立ち会っていたという。スキャッグスの他にも5人の選手が薬物を使っていると、ケイは捜査当局に供述。そのうちの一人であるマット・ハービーは、自身がスキャッグスに薬物を渡し、クラブハウスで使用していたことを認め、のちに60試合の出場停止処分を科せられた。ケイには、スキャッグスの死をもたらした罪で22年に禁錮51年の判決が下っている。
1970~80年代のメジャーリーグでは麻薬が深刻な問題となって、多くのスター選手が出場停止などの処分を下されたが、90年代以降はそうした事例は激減していた(代わりに筋肉増強剤などが流行していたが)。それだけに、2010年代にもなって現役の球団職員が“売人”と化し、クラブハウスで“顧客”がそれを使うなどという事態が発生したのは信じ難かった。
あらゆる意味で残念だったスキャッグスの死における唯一の光明は、オピオイドの恐ろしさを球界に知らしめたことだろう。彼の死後にMLBが実施し始めたオピオイドの薬物検査に、違反した選手は今のところ出ていない。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
試合終了後には、全員が着ていたユニフォームをマウンド上に置いて、亡きチームメイトに捧げた。エンジェルスの球団史上でも、とりわけ感動的な場面となった。
だが、事態は予想外の進展を見せる。8月30日、検死の結果が「アルコールと複数の薬物に起因するもの」だと発表された。その薬物とは、いずれもオピオイドの一種であるオキシコドンとフェンタニル。オピオイドは、本来は鎮痛剤だが、近年アメリカでは過剰摂取による多数の死者が発生し、17年にはドナルド・トランプ大統領が非常事態宣言を発するに至ったくらい、深刻な社会問題となってる。スキャッグスの命を奪ったのは、ヘロインの50倍も強力で、わずかな量でも死をもたらすフェンタニルであったと結論づけられた。
さらなる衝撃は、その入手先が他ならぬエンジェルスの広報部長エリック・ケイだったことだ。スキャッグスとケイは何年もともに薬物を使っていて、その事実は他の職員も把握していた。テキサス遠征の直前にも、ケイは非正規ルートで入手した薬物をスキャッグスに手渡し、死の数時間前も服用している場面に立ち会っていたという。スキャッグスの他にも5人の選手が薬物を使っていると、ケイは捜査当局に供述。そのうちの一人であるマット・ハービーは、自身がスキャッグスに薬物を渡し、クラブハウスで使用していたことを認め、のちに60試合の出場停止処分を科せられた。ケイには、スキャッグスの死をもたらした罪で22年に禁錮51年の判決が下っている。
1970~80年代のメジャーリーグでは麻薬が深刻な問題となって、多くのスター選手が出場停止などの処分を下されたが、90年代以降はそうした事例は激減していた(代わりに筋肉増強剤などが流行していたが)。それだけに、2010年代にもなって現役の球団職員が“売人”と化し、クラブハウスで“顧客”がそれを使うなどという事態が発生したのは信じ難かった。
あらゆる意味で残念だったスキャッグスの死における唯一の光明は、オピオイドの恐ろしさを球界に知らしめたことだろう。彼の死後にMLBが実施し始めたオピオイドの薬物検査に、違反した選手は今のところ出ていない。
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
関連記事
- 銃で命を落とした若き好打者ボストック。理由は妻の浮気を疑った夫の誤解だった――【エンジェルス悲劇の暗黒史】<SLUGGER>
- メジャー初勝利の直後に飲酒運転の巻き添えで...あまりに痛ましいエイデンハートの死【エンジェルス悲劇の暗黒史】<SLUGGER>
- 「走攻守」のうち「打」は合格点でも「走」と「守」に難あり――吉田正尚がオールスター選出から漏れた理由<SLUGGER>
- チェロキー族の血を引く“飲んだくれスラッガー”大谷の月間16本塁打で脚光を浴びる1930年代の強打者ボブ・ジョンソン<SLUGGER>
- 「後半戦専念のため辞退すべき」「日本人初の優勝を目指してほしい」――識者が考える大谷翔平ホームラン・ダービー出場の是非<SLUGGER>