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プロ野球

「投手は自分目線ですごく難しく考えている」元沢村賞投手・金子千尋は今も“思考力”のアップデートを続ける【前編】<SLUGGER>

藤原彬

2023.08.07

――アメリカではデータを使った指導が進んでいます。指導する側にとっても、データ分析の理解と活用は欠かせないのではないでしょうか?

 アメリカの方が早くデータを取れる。選手も数字に対する理解がやはり早い。そこがアメリカの文化だと凄く感じます。そして、日本人もですけど、結果が数字として表れたら認めざるを得ない。例えば、変化球の回転数が多いか少ないか、回転軸が立っているのかなど、いろいろあります。

では、回転数を増やしたい、回転軸を寝かせたいとなればどうするか。正直、それを教えられるコーチがアメリカには少ない。マイク・マダックス(レンジャーズ投手コーチ)のような人もいますが、はっきり言ってしまうと、日本のコーチよりも現役時代に実績を残した人が少ないですから。「これをこう投げたら、こういう変化をする」と教えられる人が少ないと感じました。それでは数字は出ても、改善のための方法になりません。
 
――そこで、元沢村賞投手が実践を交えながら"通訳"すると。

 数学のように「正解はこれ」と言えるものはありません。人それぞれの方法が違えば、伝え方で選手の捉え方も変わります。「これだけ言えば、この球が投げられる」という答えがない。その選手の投げ方と、伝え方によってどのように捉えられるか。やり取りが何回かないと、相手のことは分からない。特にアメリカでは日本語とニュアンスで若干違うこともあり、すぐには伝わらず難しいと感じました。

 ただ、投球について僕は正直難しいことはしていませんでした。投手は変化球でも常に同じ球を投げようとして、自分目線で「落とさなきゃ、曲げなきゃ」となりがちです。みんな、すごく難しく考えてしまっている。

 現役時代から「多く話すタイプではない」と自称していたが、投球について語る口調は実に滑らかだ。その根底にある哲学についても触れながら、冷静な口調は次第に熱を帯びた。
(後編へ続く)

取材・文●藤原彬

著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。ツイッターIDは@Struggler_AKIRA。
 

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