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プロ野球

「緊張した方が集中できるし、いい結果も出る」元沢村賞投手・金子千尋は今も“思考力”のアップデートを続ける【後編】<SLUGGER>

藤原彬

2023.08.07

――金子コーチは理論を追い求め続けた一方で、精神面の大切さも説かれています。

 一つの考え方で、本当に結果が変わります。例えば、僕は緊張しなければ駄目なタイプですが、緊張が駄目だと思う人もいる。誰しもが結果を残したいと思うから不安があり、緊張も生まれると思うし、緊張した方が集中はできると思います。現役中にたまに緊張していない試合があり、ふわっと試合に入って、そういう試合はほぼ駄目でした。打たれてから「ハッ」となって気持ちが入るのですが、それでは遅い。でも、緊張している試合では集中もできて、いい結果が多い。

 緊張の捉え方は大事というひとつの話ですけど、メンタルは本当に大事だと思います。精神面の大切さはアメリカでも変わらないし、今では選手がメンタルトレーニング専門の人に話をしに行く。春季キャンプ中はメンタルのミーティングが多くあり、担当の方たちと話すのはネガティブではない。僕の現役時代は、そういう話をすること自体が自分のメンタルの弱さだと思っていたので、そういう人との会話は少なかった。でも今は必要だと感じます。
――金子コーチはランニングメニューで距離が長くなるような走路をとっていたと聞いたことがあります。

 僕も古い人間なので、常に人より多く走ろうと思っていました。ポール間走では少し遠くを走ってもタイム内で間に合うようにして。そんなに差はないかもしれない。それでも、スタート地点で5メートルの差があれば、10本走れば50メートル違います。1年間で走る日が100日あれば、それだけで5キロの差が人と生まれる。5年後にはもっと差ができると考えれば、一歩でも多く走った方が僕はいいと思っていました。多分、そうした考え方もメンタルにつながるはずです。

あとは、いい自己満足はした方がいいと思います。練習ランニングの量が少なくて不安を持って試合に臨めば縮こまりますから。そうならないために日々、練習をしっかりするのは僕の習慣でした。

 持論を展開しながらも、時に一度口にしかけた言葉を反芻して、より適切と思える表現にたどりつくまで考え込む。その姿に、高みへたどり着いた投球の幹にある"思考力"が垣間見られた。染みついた「相手目線」は「その選手にしか通じないアドバイスをズバッと言えたら」と語る理想の指導も導くと、期待せずにはいられない。

取材・文●藤原彬

著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。ツイッターIDは@Struggler_AKIRA。

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