専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
高校野球

継投策をめぐる各監督の戦略と思惑――3回戦以降の「投手マネジメント」から目が離せない【氏原英明が見た甲子園】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.15

 一方、多くの指揮官が採用するのは相手のやりにくさを考えた起用法だ。

 仙台育英の須江航監督は相手の心理をよく見抜いている。

 2回戦の聖光学院戦では、初戦に先発した湯田統真でも、エースの高橋煌稀でもなく、左腕の田中優飛を先発に抜擢した。

「相手は湯田の対策を立てているだろうなという予想をしました。そこで球にスピードのある湯田ではなく、緩い球が持ち味の田中にして打線をうまく狂わせられたらなと考えての起用です」。

 相手の考えそうなことを逆手に取っての先発起用。そして、その後の継投策も同じだった。

 須江監督は、相手打線が一人の投手に慣れてきたところで投手を替え、より攻略を難しくさせることを継投策の意義としているが、この日はこんな見極めだった。

「田中の場合は連打が出た時です。4回にホームランの後、連打になったので、もう厳しいかなと見て、湯田に変えました」

 我々メディア、見る側はいろいろ考えがちだ。

「先の日程を見据えたか」、「温存したかったのか」などと仮説を立ててみるが、意外と目先の勝利を見ている指揮官が多いのが現実だった。
 
 市和歌山の半田監督がそうだったように、対戦相手の神村学園の小田大介監督もエースの登板回避の理由をこう話している。

「疲労や次の対戦を考えたということはないです。市和歌山の打線はサウスポーが苦手とするんじゃないかと思って、今日は2人のサウスポーを中心で行くと決めていました」

 もともとは故障防止や疲労軽減から始まった複数投手制の波はいろんなところで楽しみな起用法を生み出している。そして、今後もさらに活発になってくるだろう。

 3回戦は台風7号接近のため1日順延になった。これは大きいだろう。特に14日に2回戦を戦ったチームは、本来なら中1日で3回戦を戦わなければならず、その後も決勝まで中1日が続く日程だったが、これで3回戦が中2日となった。

 しかも、2回戦でエースを先発させていないチームばかりだから、いい風に作用することは間違いない。どのチームも、もう一度リセットした状態で投手起用を考えることになるはずだ。

 3回戦から始まる大会終盤戦の戦い。投手マネジメントをどうやり繰りしていくのか。指揮官たちの手腕を楽しみに見たいと思う。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号