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高校野球

最大の問題は過剰な“非商業主義”。収益拡大によって解決できる懸案も少なくないはず【西尾典文の甲子園改革案】<SLUGGER>

西尾典文

2023.08.18

 それもそのはずで、寄付に対するリターンは金額がいくらであっても寄付サイトへの名前掲載、感謝のお手紙、寄附金受領証明書のみと、善意のみに訴えかけたものだったのだ。このあたりのやり方は浮世離れしていると言われても仕方がないだろう。

 しかし高校野球は前述した通り、コンテンツとしての価値は日本国内のスポーツでもトップクラスであることは間違いなく、その価値をもっと最大化することを考えれば、簡単にお金は集まるはずだ。現在無料と言われている放映権料を見直すだけで、莫大な金額が入ってくる可能性も高い。NHKで全国放送しているから国民的コンテンツになったという考え方もあるが、今は多くの人がネット配信で見る時代であり、JリーグはDAZNとの契約で多額の放映権料を得ている。今年から甲子園大会もAbemaTVで放映されているが、その放映権料などの実態ははっきりしておらず、不透明なままである。

 また入場料収入にも改善の余地はある。現在は1試合通しで指定席制となっているが、時間帯によっては前席売り切れのはずなのに空席が目立つことも多い。1日3試合や4試合を通して観戦しない観客も非常に多いため、退出した席を再度販売すればまだまだ売上を上げられる可能性は高い。グッズについても毎年決められたようなものしか販売していないが、やり方によってはまだまだ利益を上げられるはずだ。前述したクラウドファンディングも、リターンの内容をもっと工夫すれば目標の1億円以上のお金を集められる可能性は高い。

 日本は高校野球に限らず、部活動である学生スポーツで金儲けをすることはけしからんという風潮が強いが、あらゆることにお金がかかることは間違いなく、善意だけでの運営には限界があることは間違いない。コンテンツが持つ力を利用してマネタイズし、それを競技の発展にきちんと使うのであれば何も問題はないはずだ。実際にアメリカでは大学スポーツにおいてプロスポーツと変わらない規模の収益を上げており、発展を続けている。少なくともその仕組みなどを学ぼうとする姿勢はあって然るべきだろう。
 お金の使い道が重要と言いながらも、まずは稼ぐことを指摘したのは、前述した通り現在の高校野球が過剰に非商業主義を貫いている点と、お金によって解決できる問題点も多いと考えたからだ。例えば、暑さ対策でドーム球場での開催を目指した場合、その使用料は大きなネックとなってくる。選手の負担を減らすためにベンチ入りの選手を増やすにしても、その選手の滞在費などが必要となる。また大きな話としては甲子園に屋根をつけることや、もっと大規模なリーグ戦を行うといったことも、資金があれば可能になるのだ。

 何か新しいことをやろうとすると前例がない、資金がないから無理という話でなかなか進まないことは多い。そうではなく、まずはこれまで作り上げてきた伝統と良い部分を守りながら、更により良いものにするための理想を全て洗い出すところからスタートし、そのために必要な資金を集める最大限の努力をするという考えが重要ではないだろうか。

 そして、お金を集められるのはコンテンツとしての価値が高いうちであり、やりたいことややるべきことができずに、どんどん価値が下がった後では不可能な話である。高校野球が国民的な関心事であるうちに、その価値を正しくお金に換え、課題解決のために使うという発想になっていくことを望みたい。


文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
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