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高校野球

優勝を目指しながら、チームの成長も追及する慶応が見出した「新しい勝ち方」【氏原英明が見た甲子園:第11日】<SLUGGER>

氏原英明

2023.08.19

 エースが先発を回避した慶応が大量6得点を挙げ、逆にエースが先発した沖縄尚学は追いかける流れになった時点で、試合は決まったと言ってもよかった。エースがブルペンに待機する慶応は、いかに試合を締めるかを考えるかだけでよかったのだ。

 慶応の2番手、松井が6回からの3イニングをピシャリと抑えると、9回にエース小宅が登場。沖縄尚学打線に付け入る隙を微塵も与えず、完璧な試合運びで制したのだった。

 結果的に、慶応ベンチの選択は正しかったということになる。ここで注目したいのは森林監督の発想だ。

 冒頭でも述べた通り、森林監督は日本一を目指している。ただ、同時に「チームの成長」という言葉が出てきているところに、この采配の妙味がある。

 森林監督は「成長」の意図をこう話している。

「チームとして成長させるためには、小宅が先発じゃないパターンをやりたいと判断しました。今日の試合でまた小宅を先発させてしまうと、東恩納くんとの投げ合いになって、ずっと引っ張ることになる。たとえ勝ったとしても小宅のダメージが大きくなって、準決勝や決勝が厳しくなることはイメージできた。優勝を目指すには違う投手でいって、小宅は短いイニングにして勝つという目論見でした。そうすることでチームに勢いがつくし、他の投手にとっても大きな自信がつくことになる。うまくいけば良いことしかない」
 
 小宅だけで勝ちに行く方法を選んでいたら、おそらく、今日の慶応に「いつもと違う勝ち方」は生まれなかっただろう。

「チームの勝ち方」を確立することは大事だ。しかし、甲子園の大舞台でただ日程を消化するだけでは、勝つ確率を上げていくことはできない。さまざまな勝ち方をプラスしていくことで勝率は上がっていく、というものである。

 ただ、森林監督のように、それを大会の中で作っていこうとするのは珍しい。

「チームの成長」を目指したところに、この勝利の意味はあった。

“プランB”で、慶応は大きな勝利をつかんだ。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
 
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