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侍ジャパン

合宿初日から想定していたタイブレークでの古賀の送りバント。アジアCS優勝をもたらした井端監督の入念な準備<SLUGGER>

氏原英明

2023.11.20

 というのも、代打での送りバントを指示した古賀にも、大会以前からあらかじめその役目を託していた。合宿初日から今日の試合前まで「タイブレークになったらバントの場面で出すから」と念押ししていたのだ。一度言うだけではなく、試合ごとに井端監督が意識させていたというわけである。

 井端監督の指揮官としての手腕が高いと感じるのは、このようにさまざまなシチュエーションを想定しながら大会に入り、独自の眼を持って作戦を立てて遂行しているところだ。

 たった4日間の取材だけでも感じるのだが、深い野球観がその言葉から見えてくる。選手選考においても、何となく選ぶようなことはしていない。古賀には2番手捕手としての役割とともに「タイブレークでの送りバント」という明確な選考理由があったし、この日、10回表に登板した吉村貢士郎(ヤクルト)にしても、最初からタイブレークでの登板を想定しての選出だった。

「チームでは先発もリリーフもしているので、リリーフ登板は問題ない。それと社会人野球出身ということでタイブレークに慣れているだろうと、吉村の役割は決めていた」

 それぞれに役割があるからこそ組織は回る。それを熟知し、自分のやり方に選手を当てはめるのではなく、選手個々の持ち味を踏まえた上で勝つためのチーム構成をする。ここに“井端野球”の真骨頂がある。
 
「今回選んだ選手というのはずっとレギュラーシーズンを見きましたから、いいところもあれば悪いところも見てきたつもりなので、そこで、明らかに違ったプレーをしている選手には声をかけなければいけないと思っていました。今日の門脇選手がそうでしたけど、声をかけて結果が出て良かったなと思う。そこで出せるのもすごいことなんです。失敗したことが結果うまくいったというのが勉強になったと思う」

 一人一人のいい部分も悪い部分もすべて理解してくれる指揮官の下でプレーする選手は、ある種の心地良さを覚えていたに違いない。

 当然、チームはまだ始まったばかり。これからうまくいくことも失敗することもあるだろう。10回裏に代打を出された森下にもいろんな思いがあったはずだし、今度は森下に打たせる場面が来る時もあるはずだ。その時、森下がメキシコ戦の村上になれるかどうかも今後の成長次第だろう。

 井端監督は次なる舞台でどんな采配を見せてくれるのか。これまで以上に楽しみな侍ジャパンが生まれてくるような、そんな予感さえするアジアチャンピオンシップ連覇だった。

取材・文●氏原英明

【著者プロフィール】うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『SLUGGER』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設。このほど、パ・リーグ特化のWEBマガジン「PLジャーナル限界突パ」を創刊した。

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