「単純に嬉しいなと。偉大な先輩がいる中で初めて達成できたのは嬉しいですし、自信になるんじゃないかなと思ってます」。試合後は水原一平通訳ともども、チームメイトからビールをかけられて祝福された。エンジェルスでは13年のマイク・トラウト以来で、その盟友のコメントは「難しいのを3つ先に片付けたからね。サイクルヒットを打つには賢い方法だな」。
打撃に専念することで、どれほどの成績が残るかと思われたこの年だったが、後半戦でスローダウン。左ヒザを手術するため9月11日が最後の出場となり、このサイクルヒットがメジャー2年目のハイライトとなった。
●4
初の“リアル二刀流”で本格覚醒を予感させる号砲
(2021年4月4日)
20年の大谷は投打とも大不振に陥り、二刀流継続の是非が疑問視されるまでになった。だが、絶対に結果を出さなければいけない状況で、大谷は満点回答を出す。21年からジョー・マッドン監督は“リアル二刀流”、すなわち先発投手として投げる日も打席に立つ起用を解禁。日本では何度か経験があったが、メジャーではこの日のホワイトソックス戦が初の試みだった。
投手として初回を無失点で切り抜けると、その裏、2番打者で打席に立ち、ディラン・シースの速球を捉える。何かが爆発したような、強烈な音を残した打球は右翼席中段への先制2号ソロ。MLBの公式動画でも「繰り返し聞きたくなる、史上最高の打球音」といった書き込みが多数あった完璧な当たりは、飛距離451フィート、打球速度115マイルのいずれも自己新であった。
投げても5回途中まで3失点(自責点1)で降板、勝利投手とはなれなかったものの、リアル二刀流の船出としては上出来だった。マッドン監督が「あの試合で彼はすべての疑問に答えた。誰もが彼なら(二刀流は)できると信じるようになった」と振り返ったように、真の意味で二刀流・大谷が誕生した、キャリアの中でも最重要のターニング・ポイントと言えるだろう。
●5
長駈サヨナラの生還!「走る大谷」で魅せる
(2021年7月2日)
「投げる」「打つ」だけでなく「走る」も大谷の大きな魅力の一つ。チームメイトのジャスティン・アップトンも「チームで一番足が速い」と言っていたくらいで、この日のオリオールズ戦はそれが最高の形で発揮された。
試合前に発表された6月の月間MVP受賞を自ら祝うかのごとく、3回に右翼席へ特大の29号ソロ。これは前半戦での球団記録を塗り替える一発でもあった。続く4回も、今度はレフトへ2打席連続の30号逆転2ラン。そして7対7の同点で迎えた9回裏、四球で出塁した大谷が1死から二盗を決めると(シーズン12個目)、次の球をジャレッド・ウォルシュがライト前へ運ぶ。一気に三塁を回った大谷の足が、捕手のタッチよりわずかに早くホームベースをかすめてサヨナラ勝利となった。
仰向けになりながら両手を突き上げ、喜びを全身で表す大谷。オリオールズのブランドン・ハイド監督は「彼一人に打ち負かされた」と嘆くしかなかった。『オレンジ・カウンティ・レジスター』のJP・フーンストラ記者はこのように記している。「ボックススコアには、大谷のパワーは正確に記録されている。けれども彼のスピードは、単なる『1盗塁』よりもずっと価値があったのだ」。
※後編へ続く
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
【大谷ドジャース入団会見一問一答】「とにかく勝ちたいという意志の強さが心に残った」――本人が明かすドジャース決断の舞台裏
【関連記事】“人種の壁”打破に西海岸移転、野球の国際化推進...球界に数々の革命をもたらしたドジャースこそ大谷翔平にふさわしい<SLUGGER>
打撃に専念することで、どれほどの成績が残るかと思われたこの年だったが、後半戦でスローダウン。左ヒザを手術するため9月11日が最後の出場となり、このサイクルヒットがメジャー2年目のハイライトとなった。
●4
初の“リアル二刀流”で本格覚醒を予感させる号砲
(2021年4月4日)
20年の大谷は投打とも大不振に陥り、二刀流継続の是非が疑問視されるまでになった。だが、絶対に結果を出さなければいけない状況で、大谷は満点回答を出す。21年からジョー・マッドン監督は“リアル二刀流”、すなわち先発投手として投げる日も打席に立つ起用を解禁。日本では何度か経験があったが、メジャーではこの日のホワイトソックス戦が初の試みだった。
投手として初回を無失点で切り抜けると、その裏、2番打者で打席に立ち、ディラン・シースの速球を捉える。何かが爆発したような、強烈な音を残した打球は右翼席中段への先制2号ソロ。MLBの公式動画でも「繰り返し聞きたくなる、史上最高の打球音」といった書き込みが多数あった完璧な当たりは、飛距離451フィート、打球速度115マイルのいずれも自己新であった。
投げても5回途中まで3失点(自責点1)で降板、勝利投手とはなれなかったものの、リアル二刀流の船出としては上出来だった。マッドン監督が「あの試合で彼はすべての疑問に答えた。誰もが彼なら(二刀流は)できると信じるようになった」と振り返ったように、真の意味で二刀流・大谷が誕生した、キャリアの中でも最重要のターニング・ポイントと言えるだろう。
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長駈サヨナラの生還!「走る大谷」で魅せる
(2021年7月2日)
「投げる」「打つ」だけでなく「走る」も大谷の大きな魅力の一つ。チームメイトのジャスティン・アップトンも「チームで一番足が速い」と言っていたくらいで、この日のオリオールズ戦はそれが最高の形で発揮された。
試合前に発表された6月の月間MVP受賞を自ら祝うかのごとく、3回に右翼席へ特大の29号ソロ。これは前半戦での球団記録を塗り替える一発でもあった。続く4回も、今度はレフトへ2打席連続の30号逆転2ラン。そして7対7の同点で迎えた9回裏、四球で出塁した大谷が1死から二盗を決めると(シーズン12個目)、次の球をジャレッド・ウォルシュがライト前へ運ぶ。一気に三塁を回った大谷の足が、捕手のタッチよりわずかに早くホームベースをかすめてサヨナラ勝利となった。
仰向けになりながら両手を突き上げ、喜びを全身で表す大谷。オリオールズのブランドン・ハイド監督は「彼一人に打ち負かされた」と嘆くしかなかった。『オレンジ・カウンティ・レジスター』のJP・フーンストラ記者はこのように記している。「ボックススコアには、大谷のパワーは正確に記録されている。けれども彼のスピードは、単なる『1盗塁』よりもずっと価値があったのだ」。
※後編へ続く
文●出野哲也
【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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