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プロ野球

「こっちに来て野球が楽しい」安田尚憲がプエルトリコで過ごした充実の日々は、3年目の飛躍の土台に

中島大輔

2020.01.06

 実は、日本でのシーズン中から安田には意識していることがあった。投手に対して身体が前後に動きすぎず、上半身が前に落ちないようにすることだ。

 プエルトリコに来てからトップを早く作るようにしたことで、目線のブレが少なくなり、“動くボール”へも徐々に対応できるようになっていった。

「トップを早めにとっているので、その分、ボールを見られます。こっちは基本的にストレート主体でガンガン来るけど、パ・リーグはストレートが多いリーグなので、その練習にもなりますね。この経験が来年に生きてくると思います」
 
 自身の課題を発見し、思考を巡らせながら前向きに試行錯誤していく。ラティーノとジャパニーズのハイブリッドのような姿勢こそ、安田にとって最大の才能と言えるかもしれない。

 カリブ海上空から太陽の光が煌々と照るプエルトリコのグラウンドで、クリオージョス・デ・カグアスのチームメイトがゆっくりくつろいでいる頃、現地コーチと守備練習に励む安田の姿をたびたび目にした。

 グラウンドに両ヒザをつき、手で転がされるボールを正面で捕球していく。今度はノックバットで軽く打たれた打球を、そのままの体勢でさばき始めた。MLBでスターになったカルロス・コレア(アストロズ )やハビア・バイエズ(カブス)からまだ無名の少年まで、プエルトリコでは誰もが行う練習だ。こうして基礎を磨くことで、中南米特有の柔らかいハンドリングができ上がっていく。

「基本的なところは日本と一緒なんですよ。最初はグラブさばきのことを言われるのかなと思ったら、『足のステップで身体を運ぶのが内野守備の基本だ』と言われました。その中で基本的な練習を重点的にやっていきます」

 身に着けるべき基礎は同じだ。しかし、守備に対する心持ちで異なる点がある。

「プエルトリコはどれだけ早く投げられるか、どれだけアウトを多く捕るかという考え方です。常に『前に、前に行け』とも言われていますし、『チャレンジすることが大切だ』と言われますね」

 まだまだ守備も打撃も課題が多い。自身の現在地と、少し先にある理想を同時に見据えながら、一歩ずつ前に進んで行こうとしている。

「このオフが大切だと思います。キャンプからアピールしていかないといけない立場なので、しっかり準備していきたいですね。2年やって、プロの世界がどれだけ厳しいかもわかっていますし、そんなに簡単にレギュラーになれるとも思ってないので。まずは自分ができることを少しずつしっかりやっていって、チームから信頼されるような選手になりたいです」
 
 2020年、安田への期待はいやが上でも高まる。イースタン二冠王という彼自身の成長に加え、キャプテンの鈴木大地がFAで退団した。チームには長距離を打てる打者があと数枚欲しいところだ。
 
 そんなチーム状況にあって、どうすれば自分は戦力になれるのか。

「まずは守備だと思います。打撃についてはピッチャーのレベルが二軍と一軍では違うので何とも言えないですけど、まずは安定して守れないことには打席をもらえないと思うので。そこでチャンスをしっかりもらえるように、キャンプからアピールできるようにしたいと思います」
 
 心身両面に圧倒的な潜在能力を感じさせるトップ・プロスペクト。安田は周囲の期待をしっかり受け止めながら、冷静かつ前向きに自分自身と向き合うことができている。
 
 まだ粗削りだが、土台や芯となる部分は強固さを増してきた。守備で一定以上のパフォーマンスを披露できれば、持ち味の打撃を活かす機会は増えていくはずだ。そこまで到達して、初めてレギュラー争いを挑んでいくことができる。

 成功への第一歩は、その道程をしっかり描くことにある。安田には、プロ3年目の飛躍の可能性を大きく感じさせられる。

文●中島大輔(スポーツライター)

【著者プロフィール】 
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。

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