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高校野球

【甲子園熱戦レポート│10日目】敗戦の悔しい経験もまた人生訓――スクイズ失敗後に崩れた左腕へ広陵・中井監督が投げかけた“愛の言葉”<SLUGGER>

氏原英明

2024.08.16

 背番号「10」の山口は1年からエースの高尾の背中を見て成長してきた選手だった。「身体の使い方だったり、トレーニング立ったりの話をいろいろ教えてもらって成長できた部分はある」と山口。甲子園は一人の投手で勝てるほど甘くない。その中で貴重な戦力になったはずだったが、大舞台で力を十二分には出しきれなかった。

 山口は登板を振り返る。

「スクイズの失敗は自分の中では気にしないように思ってたんですけど、やっぱり自分がやらかしてしまったっていう気持ちがすごく強かった。絶対に抑えないといけないという気持ちが力みにつながってしまったのかなと。誰にもマウンドを譲らないぐらいのピッチングできるような選手に、これからなっていきたいです」

 中井監督はこの日の敗戦を悲観などしていない。作戦がうまくいかなかったこと、山口がその影響で崩れてしまったこと、そして、試合に負けたこと。それらがすべて人生訓に思えるからだ。

 中井監督は話す。
「すべてが経験だったり勉強なので、ここですべてが終わるという風には広陵の野球はまったく考えてない。これから先、それぞれの道があって思いがあって夢がある。その手助けを今からもずっとしていきたいと思います」

 最後の夏の大会は選手個々の人間性を試されているようなものだ。ここまで培ってきたものがどう出るか出ないか。誰もが努力はしている。しかし、人生とは難しいもので「後悔のない努力」を探すほど難しいものはない。

 甲子園とは、高校野球とは、そのことを知る場所なのだ。

「手助けをこれからもしていきたい」
 
 中井監督はそう言って温かい言葉を生徒たちに向けた。

 甲子園が、高校野球が人生のピークになってはいけない。これからの人生を強く生き抜いていくことが、高校野球をやり遂げたことの本当の意義だろう。 

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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