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【玉木正之のベースボール今昔物語:第6回】楽しい想い出ばかりのMLBの取材と、ドジャータウンでも厳戒態勢だった日本プロ野球。まだアメリカが遠かった日に見た日米の空気の違い<SLUGGER>

玉木正之

2025.03.03

 それにこの時、小生はもう一つの“作戦”を用意していた。というのは、フロリダに入る前にアリゾナで新人として加わっていた長嶋一茂をはじめとするヤクルトを取材した際、星野監督も、その年から中日に加わった落合博満も、まったく取材に応じず、立ち話さえ受け付けないという情報が入っていた。これは何とかしなければいけないと思い、ドジャータウンに取材に入る直前に、小生は口髭をきれいサッパリ剃り落としたのだ。

 この作戦は見事に成功。ドジャースの取材証を首から提げてぶらぶら歩いてる小生に向かって、星野監督も落合も、「どうしたん? 剃ったん? 何で?」と、向こうの方から近づいてきてくれた。それをきっかけにいろいろ話をすることができ、今シーズンの目標と闘い方を星野監督に訊いたり、「メジャーのキャンプ地の環境は本当に良いよね」と言う落合に、このままメジャーに残る気にはならないの? と聞くことができたりしたのだった(彼の答えは苦笑いしながら「もう、2~3歳若ければ残ってたね」。当時彼は34歳だった)。

 話が大きく横へ逸れてしまったが、長嶋氏を求めてヤンキー・スタジアムに行った小生は、まずグラウンドへ入るなり、真ん前にレジー・ジャクソンがいて、筋骨隆々の上半身が180度捻れるスイングを間近で見て、スウィングの風圧まで全身で感じ、それだけで早くも大満足したのだった。
 
 おまけに、ベンチ前で出会った『ニューヨーク・タイムズ』紙の日系人記者から「ミスター・ナガシマは昨日の試合を見た後、モントリオールへ向かった」との情報を得ることができた。そこでその日は、仕方なく(…というのは大嘘で、大喜びで)ヤンキー・スタジアムの記者席に座り、ホットドッグを食べながらアスレティックスとのプレーオフを楽しんだ。その後モントリオールへ行ってホテルで長嶋氏を無事捕まえることもでき、インタビューの許可も得て『GORO』の記事を書くこともできたのだった。

 今はもうメジャーの取材でアメリカへ渡る元気はなくなってしまった73歳だが、元気がなくなってしまったと自分で感じるのは、年齢によるものではなく、あまりにも多くなった日本からの取材陣をテレビのワイドショーやニュースで見たからかもしれない。

文●玉木正之

【著者プロフィール】 たまき・まさゆき。1952年生まれ。東京大学教養学部中退。在学中から東京新聞、雑誌『GORO』『平凡パンチ』などで執筆を開始。日本で初めてスポーツライターを名乗る。現在の肩書きは、スポーツ文化評論家・音楽評論家。日本経済新聞や雑誌『ZAITEN』『スポーツゴジラ』等で執筆活動を続け、BSフジ『プライムニュース』等でコメンテーターとして出演。主な書籍は『スポーツは何か』(講談社現代新書)『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』(春陽堂)など。訳書にR・ホワイティング『和を以て日本となす』(角川文庫)ほか。
 

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