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MLB

開幕投手に指名された今永昇太と菊池雄星――メジャーで確固たる地位を築いた2人のレフティが視界に捉える「その先」<SLUGGER>

ナガオ勝司

2025.02.26

 その先輩左腕がエンジェルスの「開幕投手」に指名されたのは、今永が「開幕投手」に指名された翌20日の朝だった。

「非常に光栄なことですし、そこに向けてしっかり調整していきたいと思います」

 メジャー7年目でつかんだ初の栄誉について、今永よりも2つ年上の左腕は実感を込めた。

「(MLBに来て)いろいろ悩んだ時期とかもありましたんでね、それを経験しながら、こうやって7年目で開幕投手というのは非常に嬉しい気持ちと、今までやってきたことがムダじゃなかったな、と思います」

 今永(と山本)は3月18日のエアコン完備の東京ドームで、菊池は27日(現地)、厳寒が予想されるシカゴの屋外球場でのホワイトソックス戦で大役を務める。

 それぞれ日付は違うが、3人の日本人投手が「開幕投手」を務めるのは史上初のことらしい。感想を求められた菊池は「何と言っていいんでしょうか、難しいですけど」と苦笑いしながら、率直な思いを口にした。

「非常にレベルの高い世界で、毎日、毎日生き残るのに必死なんでね。1試合1試合全力で投げて試行錯誤した結果、こうして選んでもらったというのは嬉しいことですし、日本人投手のレベル、価値が上がってきているというのは感じます」

 メジャー2年目の今永と7年目の菊池。どちらに聞いても、あまり接点がないのだが、共通していることもある。

 それは彼らが今、どっしりと地に足着いた感じで、異国の地にいるという事実だ。

「もちろん嬉しい気持ちはありますけれど、1年間どういうパフォーマンスを出すかってこと、ローテーションに穴を開けずに、とにかく、32試合投げるってのがチームにとって一番必要なことですし、僕も一番大事にしてますので、引き続きそれを一番大事に調整していきたいなと思う」

 菊池が慎重に口にしたその言葉は、今永がキャンプ初日、去年の反省を踏まえてこう言ったのを思い出させた。

「去年はフィジカル的にちょっと問題があったこともありましたし、頑張らなきゃいけないところでちょっと落ちたところもありました。だから今年は、チームが頑張らなきゃ行けない時に自分もしっかり、その力になれるように頑張っていきたい」
 メジャー1年目の今永は、首脳陣が起用法について慎重だったこともあり、中5日を基本に先発ローテーションを守りながら、シーズン29試合の先発を記録した。チームが優勝争いから外れたため、最終戦の登板を回避したが、本来は30試合の登板だったはずで、それは「15勝」や「防御率2点台」といった目につきやすい数字よりも、誇りにすべき数字である。

 一方の菊池は、同じく中5日を基本としながらも、中4日が10試合(今永は6試合)もありながらのシーズン32先発だった。昨季のMLB最多が33先発で、それは9人しか達成しておらず、菊池と同じ32先発にしても、16人しか達成できなかった「エリート級」の数字である。イニング数では菊池が175.2イニング、今永が173.1イニングだから、今永の方が1試合平均では長いイニングを投げていることになるが、どちらが優れている、という比較論ではない。

 今では達成が難しくなっている「シーズン30先発&200イニング以上」を目指すのは、今も昔もMLBにおける先発投手の理想像であり、彼らがある種の強迫観念を持って追いかけているのも、その「スーパーエリート級」の数字なのではないかと思う。

 菊池は、「開幕投手」取材の最後にこう付け加えている。

「僕自身、まだまだ伸びしろだったり、可能性を持ってると自分で思ってますし、数字的にももっともっと伸ばしていけると思ってます。1年間投げるってことは言いましたけど、プラスして今年は自己最高の成績を出したいなと思ってます」

 菊池雄星と今永昇太。

 日本のニュース番組で連日、流される「大谷翔平と仲間たち」的なニュースとは、違う場所にいる2人の日本人「開幕投手」。

 彼らが一歩一歩、踏みしめるようにして残す物語には、あの、あまりにも有名な「LA」ロゴや、「Dodger Blue」でさえ、脇役になってしまう。

 主人公はあくまで、メジャーリーグで確固たる地位を築いた2人のLefty=左腕。

 彼らが今、砂漠の街アリゾナで描き始めたのは、新しい物語の「序章」なのだと思う――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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