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MLB

便利屋扱いされ、右手首の痛みに耐え、スランプも経験...もがき続けながら打点王を争う鈴木誠也の“格闘”の日々<SLUGGER>

ナガオ勝司

2025.05.22

「逆にプラスに捉えて、いろんな守備位置で守れるし、守れば試合にも入りやすいんで、難しさを感じながらも自分のスキルアップと捉えてやっている」

 何はともあれ、鈴木は現在、少し持ち直して、14日からの6試合で打率.348(23打数8安打、2本塁打、9打点)と調子を上げたため、日本ではおそらく「過去最速ペースの12号本塁打到達」や「打点王争い」という部分だけが大きく喧伝されていると思う。もちろん、自身が持つ日本人右打者のシーズン最多21本塁打の更新や、打点ランキングは気になるところだが、この5月に鈴木が怪我や不調と格闘している姿こそ、現在の彼の「リアル」である。

「結果なんて、ホント、どうでもいいんですよ」。

 鈴木がそう言ったのは、16日のホワイトソックス戦で、2本の二塁打、2打点でチームの勝利に貢献した試合後である。

「野球なんてね、バカみたいなスポーツですよ。真剣にやって芯に当たってもヒットになんないし、適当にやりゃヒットになるし、適当にやるのが一番ですよ」

 投げやりな言葉に聞こえるかもしれないが、実際、件の不調が続いた頃には、打球初速160キロ超の鋭い打球が野手の正面を突いたり、相手の好守に阻まれることが多々あった。次の試合でボテボテの打球でも安打が出れば、それも「ツキがなかった」と片付けられるだろうが、強い打球もボテボテの打球も抜けないと、前述のような数字が残ってしまう。

「結果がすべてなんでね、この世界は」

 ただし、打点についてははっきりと、意識している。

「もちろん、走者がいれば打点は意識しますし、自分がアウトになってでもとりあえず点が入れば後の打者も楽になる。だから、そこはできる限り意識して、何とか1点でも取れればという思いでやってる。もちろん、上手くいかない時はありますけど、ある程度は状況を見ながら、少しでも後ろが楽になるようにと心がけて打席に入っている」

 打席の内容がそのまま結果に反映されなければ、チーム事情で、「指名打者」をやっとけと命じられたり、「左翼」や「右翼」をやれと命じられたり。あまり面白くない状況だけれど、自ら変えることはできないし、とにかく格闘し続けるしかない。
 
 では、「ほぼアメリカ人だけのチーム」の選手たちは、そんな鈴木をどう見ているのか。

 たとえば今季、大ブレイク中で、普段からお互いに「勝利の急所攻撃セレブレーション」でおなじみになっているPCAは、「Seiya」という名を出すだけで、こう楽しげに言う。

「僕が1番を打つ時は、誠也やカイル(・タッカー)が後ろにいる。自分だけがチームを背負う必要なんてないんだ。何て特別なラインアップなんだろう! って思うよ」

 鈴木が「彼は翔平とか、ジャッジのレベルにいる選手」と表現したタッカー外野手は、「打点製造機」と化したチームメイトについて目を細めながらこう言っている。

「このチームに来るまではあまり対戦したことがなかったし、主にテレビの映像を記憶しているぐらいだったが、実際に一緒にやってみて、彼が素晴らしい打者で、結果を出すためにいろいろ取り組んでいることを知った。そして今、彼は素晴らしい仕事をしている」

 カウンセル監督は「慣れないポジションを任せても、平均点以上のプレーをしてくれている」と賛辞を送りながらも、鈴木の真価はそのバットにあると見ているようだ。

「彼のバットについては疑うことないぐらい、相手にとっては危険な打者なんだ。ハードコンタクトが多いし、彼のひと振りは長打になることが多い。彼がラインアップにいるというだけで、相手投手にとってはプレッシャーになる」
 
 カウンセル監督はいつだったか、「He's a strong man. He's got a beautiful swing.」と笑い、「その2つを備えているのだから、こういう結果が生まれるのは不思議じゃない」と付け加えたことがある。そんな指揮官のコメントを受けた鈴木は過日、「周りに力の強い選手がいっぱいいるから」と一笑に付しながらも、こう言った。

「そこに負けたくないという思いで、近づこうと思って、いろいろ取り組んでいるんで、日本の時よりは力強く振れるようになったのかなと思う」

 ホームランを打ったり、三振したり。チーム事情によって、「指名打者」だけではなく「右翼」や「左翼」を守ったり。そんな日常を生きる中、鈴木は着実に、自身が持つ「日本人右打者」のシーズン最多記録の21本塁打や、城島健司氏(元マリナーズ)の同74打点(06年)に近づいている――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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