彼は当時、そう言っていた。ドジャースのスター選手は今季ここまで、打率2割5分台に沈んでいるものの、開幕時のメジャー通算打率は3割台をキープしていた。身長178cm、体重81kgと日本のプロ野球選手の中に入っても小さい方。鈴木だけではなく、多くの日本人選手の道標になるべき選手だろう。
鈴木がベッツのスウィング軌道を参考にした成果は、如実に出ている。スタットキャストのデータを集めた「Baseball Savant」で「Seiya Suzuki」欄を見ると、たとえばバレルゾーンに入った打球の割合を表す指標である「Barrel %」に目が行くことになる。
鈴木のBarrel %は現在17.0%で、昨年の11.5%を上回っている。長打になりやすい角度の打球を打った割合を示す「LA Sweet spot%」も、昨年の38.8%から43.9%と確実に上がっており、「打球速度と角度の組み合わせ」が向上したことで、Expected Batting Average (xBA=打球初速や打球角度から算出される打率の期待値))は昨年の.255から.270へ、Expected Slugging Average(同じく長打の期待値)も、昨年の.453から.538へと上がっている。
打球初速=Exit Velocityも、昨年の91.7マイルから92.5マイル(約148キロから約149キロへと上がっているが、今よりも打率が良かった4月の打球速度は91マイル台だったことを考えれば、前出のセイバーメトリクス系の数字と直結しているのは、打球角度の方ではないかと推測される。
それを証明する顕著な数字は、鈴木が打球を引っ張った時の「ゴロ以外の打球になる確率」=PULL AIR %だろう。
「PULL」とは文字通り「引っ張る」ことを意味しており、右打者の鈴木の場合、中堅から左翼方向への打球だ。「AIR」とは大小のフライとライナーのこと。昨年の鈴木はこのPULL AIR %が15.2%とメジャー移籍後の最高値を記録したが、今年は26.3%とさらに大幅に上昇している。
ベッツのPULL AIR率は現在21.1%と20年以降ではもっとも低いものの、打率.348で首位打者タイトルを獲り、OPSが自己ベストの1.078だった18年は25.1%、自己ベストの39本塁打&打率.307だった23年は28.4%もあった。
興味深いのは、反対方向へ飛距離のある本塁打を打つシーンをよく見る大谷翔平(ドジャース)選手でも、実はPULL AIR%が22.6と、センター方向=Straight AIR%の19.2や、反対方向=Opposite AIR%の16.4より高いことだ。 本塁打を含む長打を打つには、打球に角度を付けた上で、「引っ張れること」が一つの条件になっているのである。
鈴木の「Step Brother=義兄弟」などと呼ばれて人気の、ピート・クロウ=アームストロング外野手は今季、鈴木とチーム最多本塁打と打点を争っているが、彼もまた、昨季は19.3%しかなかったPULL AIR%が、今年はベッツのベストイヤー並みの28.5%にまで上昇している。
「まぁ結局、バッティングなんてタイミングがすべてなんですよ」と鈴木は言う。
「球が遅いから簡単に打てる投手なんてメジャーにはいない。下からはどんどん新しいピッチャーが出てくるのに、それでもメジャーにいるんだから、何かしらの理由がある。変則モーションとか、腕が出てくるタイミングが遅いとか、出てくる角度が低いとか。こっちもいろんな投手がいる中でタイミングを合わせていかないといけない。合ってないと、球は見えていても手が出ない。気を抜けないんです」
だから、自己最速ペースで本塁打を量産しようが、打点王争いをリードしようが、浮かれたところもなければ、油断もない。現実味を帯びてきた「初のオールスター選出」についても、「このまま行けば可能性はあるかもしれないですけど、そんなに簡単なリーグではない」と慎重な姿勢を崩していない。
「そこを目指すのではなく、一日一日を全力をやって、その結果、最後に行ければいいかなと思う」
とは言え、今は野球をしていて楽しいのではないだろうか。
「日々、試行錯誤っていう感じなんで、楽しいのかって言われれば……どうなんすかね、楽しくはないですけどね、別に。毎日、結果に追われますし。上手く行かない日の方が多いんで、難しいですけど、楽しめるように頑張ります」
シーズンはまだ3分の1を終わったばかり。本塁打と打点を量産し続ける歴代最強の日本人右打者が鬼門の6月を闘っている――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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鈴木がベッツのスウィング軌道を参考にした成果は、如実に出ている。スタットキャストのデータを集めた「Baseball Savant」で「Seiya Suzuki」欄を見ると、たとえばバレルゾーンに入った打球の割合を表す指標である「Barrel %」に目が行くことになる。
鈴木のBarrel %は現在17.0%で、昨年の11.5%を上回っている。長打になりやすい角度の打球を打った割合を示す「LA Sweet spot%」も、昨年の38.8%から43.9%と確実に上がっており、「打球速度と角度の組み合わせ」が向上したことで、Expected Batting Average (xBA=打球初速や打球角度から算出される打率の期待値))は昨年の.255から.270へ、Expected Slugging Average(同じく長打の期待値)も、昨年の.453から.538へと上がっている。
打球初速=Exit Velocityも、昨年の91.7マイルから92.5マイル(約148キロから約149キロへと上がっているが、今よりも打率が良かった4月の打球速度は91マイル台だったことを考えれば、前出のセイバーメトリクス系の数字と直結しているのは、打球角度の方ではないかと推測される。
それを証明する顕著な数字は、鈴木が打球を引っ張った時の「ゴロ以外の打球になる確率」=PULL AIR %だろう。
「PULL」とは文字通り「引っ張る」ことを意味しており、右打者の鈴木の場合、中堅から左翼方向への打球だ。「AIR」とは大小のフライとライナーのこと。昨年の鈴木はこのPULL AIR %が15.2%とメジャー移籍後の最高値を記録したが、今年は26.3%とさらに大幅に上昇している。
ベッツのPULL AIR率は現在21.1%と20年以降ではもっとも低いものの、打率.348で首位打者タイトルを獲り、OPSが自己ベストの1.078だった18年は25.1%、自己ベストの39本塁打&打率.307だった23年は28.4%もあった。
興味深いのは、反対方向へ飛距離のある本塁打を打つシーンをよく見る大谷翔平(ドジャース)選手でも、実はPULL AIR%が22.6と、センター方向=Straight AIR%の19.2や、反対方向=Opposite AIR%の16.4より高いことだ。 本塁打を含む長打を打つには、打球に角度を付けた上で、「引っ張れること」が一つの条件になっているのである。
鈴木の「Step Brother=義兄弟」などと呼ばれて人気の、ピート・クロウ=アームストロング外野手は今季、鈴木とチーム最多本塁打と打点を争っているが、彼もまた、昨季は19.3%しかなかったPULL AIR%が、今年はベッツのベストイヤー並みの28.5%にまで上昇している。
「まぁ結局、バッティングなんてタイミングがすべてなんですよ」と鈴木は言う。
「球が遅いから簡単に打てる投手なんてメジャーにはいない。下からはどんどん新しいピッチャーが出てくるのに、それでもメジャーにいるんだから、何かしらの理由がある。変則モーションとか、腕が出てくるタイミングが遅いとか、出てくる角度が低いとか。こっちもいろんな投手がいる中でタイミングを合わせていかないといけない。合ってないと、球は見えていても手が出ない。気を抜けないんです」
だから、自己最速ペースで本塁打を量産しようが、打点王争いをリードしようが、浮かれたところもなければ、油断もない。現実味を帯びてきた「初のオールスター選出」についても、「このまま行けば可能性はあるかもしれないですけど、そんなに簡単なリーグではない」と慎重な姿勢を崩していない。
「そこを目指すのではなく、一日一日を全力をやって、その結果、最後に行ければいいかなと思う」
とは言え、今は野球をしていて楽しいのではないだろうか。
「日々、試行錯誤っていう感じなんで、楽しいのかって言われれば……どうなんすかね、楽しくはないですけどね、別に。毎日、結果に追われますし。上手く行かない日の方が多いんで、難しいですけど、楽しめるように頑張ります」
シーズンはまだ3分の1を終わったばかり。本塁打と打点を量産し続ける歴代最強の日本人右打者が鬼門の6月を闘っている――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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