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MLB

野球賭博で永久追放、イチローへの暴言連発、そしてコルクバット疑惑――どれほど汚辱にまみれようとも、ピート・ローズは偉大だった

出野哲也

2020.05.05

レッズの本拠地にある自分の銅像の除幕式に参加するローズ。永久追放処分になった今でも、ローズがレジェンドなのは変わらない。(C)Getty Images

レッズの本拠地にある自分の銅像の除幕式に参加するローズ。永久追放処分になった今でも、ローズがレジェンドなのは変わらない。(C)Getty Images

 マーリンズのドン・マッティングリー監督は「子供の頃はローズのような選手になりたかった。メジャーリーガーになった時も、一塁に出塁した時はいつも気さくに話しかけてくれた」、殿堂入り二塁手のライン・サンドバーグも「彼の試合に臨む姿勢、常にハッスルプレーを怠らなかったこと、野球への愛情は忘れ去られてはならない」。ローズの永久追放後に生まれたブライス・ハーパー(フィリーズ)でさえ「彼のプレースタイルには尊敬の念を覚える」と語っている。

 球界以外にも彼のファンは大勢いる。野球好きのロック歌手ヒューイ・ルイスは「あなたの音楽はローズのヘッドスライディングのようだ」と言われて、「最高の褒め言葉だ」と感激した。イチローが愛聴するラッパーのスヌープ・ドッグも「ローズに憧れて俺は大きくなったんだ」と言っている。どんなに汚辱にまみれようとも、多くの野球ファンにとってローズは今も特別な存在なのだ。

 現在の状況からすると想像しにくいが、かつてのローズは日本で最も人気のあるメジャーリーガーだった。78 年秋に親善野球で来日したレッズのメンバーには、史上最高の捕手ジョニー・ベンチや前年MVPのジョージ・フォスターもいたが、一番注目を浴びたのはヘルメットを飛ばしながらグラウンドを疾走するローズだった。当時ライオンズを買収したばかりの西武は、新チームの目玉としてローズ獲得を画策していたとの話もある。万に一つでもそれが実現していたら、ローズは自ら日本でのヒット数を加算していたかもしれない。
 
 実は彼は大の親日家でもあった。ミズノの契約選手として日本でも広告キャラクターに起用され、アメリカでは同社の製品を宣伝して回った。カッブの記録を破った際もミズノの特製バット「PR4192」を使っていた。30年後に多くの日本人から敵意を向けられるようになるとは、その頃のローズは想像していなかっただろう。

『ニューヨーク・ポスト』紙のジョエル・シャーマンは次のように書いている。「イチローの記録達成はローズの価値を下げるものではない。むしろ彼の偉大さを改めて思い起こさせてくれた。4256安打なんて信じられない数字だ。2人のプレースタイルはまるで違う。ローズは労働者のように激しく、イチローはバリシニコフ(注:ソ連出身のバレエダンサー)のように優雅にプレーする。だが、2人の根本、魂の部分は野球で満たされている。理想を求めて、何千時間もの孤独な練習に打ち込む意思で満たされているのだ」

 人間的には多くの欠陥があったのは事実だし、彼のことを無理に好きになる必要もない。だがローズにイチローへのリスペクトを要求するのであれば、ローズに対するリスペクトも欠かすべきではない。

文●出野哲也

※『スラッガー』2016年9月号より加筆修正のうえ、転載
 
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