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プロ野球

【プロ野球トレード収支の大検証:第1回】独自指標「プレーヤーズ・バリュー」で考えるトレードの「収支」

出野哲也

2021.01.01

 このトレードでの両球団の損得はどうなるか。巨人から見ていくと、マイケルは在籍3年間で+1.0なので、そのままプラスにカウントされる。そして、移籍後にマイナスとなった二岡のPVは、巨人のプラスとしては計算しない。移籍先でマイナスのPVでも、元の球団にとってプラスにはならないからだ。放出した選手のPVがマイナスだった場合は損得として数えない。

 では、移籍先でのPVがプラスだったらどうか。阪急にとっての米田のケースがこれに当てはまるが、この場合、チームにプラスをもたらすはずの選手を出したわけだから、放出球団のマイナスとして計算する。すなわち、林が移籍後に残したPV+2.8は、巨人の損失として考える。したがって、マイケル獲得で得た+1.0は、林の-2.8で帳消しになり、二岡のマイナスは無視するので、ここまでの損得は1.0-2.8=-1.8となる。

 では、巨人が獲得したもう一人の選手、工藤のマイナスは巨人の損失として計上すべきか? いや、そうすべきではないだろう。放出した選手のマイナスをカウントしないのだから、獲得した選手のマイナスをカウントするのは整合性がない。放出にせよ獲得にせよ、PVはプラスの場合のみ集計対象となる。したがって工藤は計算に入らず、このトレードの巨人側から見た損得は-1.8となる。

 今度は日本ハム側から見てみよう。巨人での工藤と同様、二岡のマイナスは数えない。林は日本ハムでの3年間のみが対象で+3.3。放出した2選手に関しては、退団後のPVがすべて対象なので、マイケルは西武時代も含めた+1.4が損失分となり、工藤は巨人・ロッテ・中日時代を含め-9.9だったので計算には入らない。よって林で得た3.3から、マイケルで失った1.4を引いた+1.9が、日本ハム側の収支となる。二岡+林⇔マイケル+工藤のトレードは、以下の数字が最終的な収支となった。

巨人 -1.8/日本ハム +1.9
 
 このような作業を、2リーグ分立後の1950年以降に成立したすべてのトレードに対して行った。すべてデータに基づいて算出したもので、個人的な見解は差し挟んでいない。そして最もPVのプラスが多かった、すなわち獲得側の球団が最も得をしたのは、以下の5件だ。

 1979年
真弓明信、若菜嘉晴、竹之内雅史、竹田和史(西武)⇔田淵幸一、古沢憲司(阪神)
阪神 +260.9/西武 -257.3

1987年
落合博満(ロッテ)⇔牛島和彦、平沼定晴、桑田茂、上川誠二(中日)
中日 +257.0/ロッテ -274.4

1998年
矢野輝弘、大豊泰昭(中日)⇔関川浩一、久慈照嘉(阪神)
阪神 +159.9/中日 -159.9

1988年
ラルフ・ブライアント(中日)⇒近鉄(金銭)
近鉄 +125.6/中日 -125.6

2013年
糸井嘉男、八木智哉(日本ハム)⇔大引啓次、木佐貫洋、赤田将吾(オリックス)
オリックス +118.4/日本ハム -182.9

 これらのトレードの詳細について、次回から一件ずつ取り上げていく。

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。
 

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