もっとも、首脳陣が目先の勝利にこだわるのは当たり前と言える。
むしろ、それが彼らにとって最大の仕事だ。
問題は、球団として長期的視点に欠けていることにある。今井をエースに育てようと考えているなら、数年先までの育成計画を立ててあるのか。キャッチボールが雑という、投手にとって大きな問題をなぜ改善させられないのか。
十亀によると、キャッチボールがいい加減なのは、今井に限った話ではない。
「本当に思うのが、内海(哲也)さん、榎田さんのキャッチボールを見てほしいんですよ、ファームの子には。肩ができればいい、マウンドで(投球練習を)やればいいんでしょっていう子が、たぶんまだ多いと思うんですよね。だから僕は、そんなに(出番を取られる)危機感はないです」
ともに31歳の十亀や秋山は、チームに厳しいことを言える数少ない存在だ。そして2人は今季、くしくも同じタイミングでフリーエージェント権を取得した。上昇志向の強い彼らは、果たしてどんな選択をするだろうか。 高確率で言えるのは、秋山は海の向こうを目指すということだろう。それだけに思い出されるのが、今季開幕前に話していたことだ。
「去年優勝したから今年優勝絶対しなきゃいけないとか、選手がそこまで背負うには(FAで主力が抜けた)ビハインドがデカイですよ」
冷静にそう言うと、「でも……」と、秋山は口調を強めた。
「単純に野手だけで言えば、ポジションが空いたわけですよ。これで目がギラギラしない若手がいるんだったら、もう野球をやめたほうがいい。これは書いてくれてもいいくらい。プロ野球選手として試合に出られるチャンスがこれ以上ないわけですよ。今までは出て行ったって、単年で一人ずつくらい。『はいはい、だいたいこれくらいのメンバーでやるんでしょ』って感じで、冷めた感じでやる若手が結構多かったと思うんですよ」
「でも、それは自分で逃げているだけ。『じゃあ今年、お前、やってみればいいじゃん』って感じ。若手じゃなくても、ずっとベンチにいた人も。レギュラーの人もポジションを渡さない。2つの椅子(ポジション)が空いたとかじゃなくて、みんなでそこを取りに行くとか、守るとか、絶対渡さないとか、ガチガチのピリピリした感じですよ」
菊池雄星(マリナーズ)、浅村、炭谷が抜けて戦力を大きく落とした今季、リーグ連覇を勝ち取ることができたのは、固定された中で戦い続けた選手たちの奮闘に尽きる。野手に関しては、首脳陣は我慢強い起用で成長を後押しした。
しかし、CSではまたも無残に散った。投手交代をまるで決断できず、ベンチが無抵抗のまま敗れたチームの姿は、ライオンズファンにとって屈辱的だったはずだ。
それでもチームの敗因や、選手が伸び悩む原因を、個人に帰結させるべきではない。組織的な解決策を模索せず、ミクロの視点だけで見ていると、対症療法で終わってしまう。選手を資産と考えるなら、組織として一緒に前に進むために取り組んでいくべきだ。
指揮官はなぜ、敗因を「選手層」と挙げたのか──。
埼玉西武ライオンズが組織として、選手たちがもっと有機的に競争できる環境を作っていくことが、来季以降、雪辱を果たすために不可欠になる。
文●中島大輔(スポーツライター)
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。
むしろ、それが彼らにとって最大の仕事だ。
問題は、球団として長期的視点に欠けていることにある。今井をエースに育てようと考えているなら、数年先までの育成計画を立ててあるのか。キャッチボールが雑という、投手にとって大きな問題をなぜ改善させられないのか。
十亀によると、キャッチボールがいい加減なのは、今井に限った話ではない。
「本当に思うのが、内海(哲也)さん、榎田さんのキャッチボールを見てほしいんですよ、ファームの子には。肩ができればいい、マウンドで(投球練習を)やればいいんでしょっていう子が、たぶんまだ多いと思うんですよね。だから僕は、そんなに(出番を取られる)危機感はないです」
ともに31歳の十亀や秋山は、チームに厳しいことを言える数少ない存在だ。そして2人は今季、くしくも同じタイミングでフリーエージェント権を取得した。上昇志向の強い彼らは、果たしてどんな選択をするだろうか。 高確率で言えるのは、秋山は海の向こうを目指すということだろう。それだけに思い出されるのが、今季開幕前に話していたことだ。
「去年優勝したから今年優勝絶対しなきゃいけないとか、選手がそこまで背負うには(FAで主力が抜けた)ビハインドがデカイですよ」
冷静にそう言うと、「でも……」と、秋山は口調を強めた。
「単純に野手だけで言えば、ポジションが空いたわけですよ。これで目がギラギラしない若手がいるんだったら、もう野球をやめたほうがいい。これは書いてくれてもいいくらい。プロ野球選手として試合に出られるチャンスがこれ以上ないわけですよ。今までは出て行ったって、単年で一人ずつくらい。『はいはい、だいたいこれくらいのメンバーでやるんでしょ』って感じで、冷めた感じでやる若手が結構多かったと思うんですよ」
「でも、それは自分で逃げているだけ。『じゃあ今年、お前、やってみればいいじゃん』って感じ。若手じゃなくても、ずっとベンチにいた人も。レギュラーの人もポジションを渡さない。2つの椅子(ポジション)が空いたとかじゃなくて、みんなでそこを取りに行くとか、守るとか、絶対渡さないとか、ガチガチのピリピリした感じですよ」
菊池雄星(マリナーズ)、浅村、炭谷が抜けて戦力を大きく落とした今季、リーグ連覇を勝ち取ることができたのは、固定された中で戦い続けた選手たちの奮闘に尽きる。野手に関しては、首脳陣は我慢強い起用で成長を後押しした。
しかし、CSではまたも無残に散った。投手交代をまるで決断できず、ベンチが無抵抗のまま敗れたチームの姿は、ライオンズファンにとって屈辱的だったはずだ。
それでもチームの敗因や、選手が伸び悩む原因を、個人に帰結させるべきではない。組織的な解決策を模索せず、ミクロの視点だけで見ていると、対症療法で終わってしまう。選手を資産と考えるなら、組織として一緒に前に進むために取り組んでいくべきだ。
指揮官はなぜ、敗因を「選手層」と挙げたのか──。
埼玉西武ライオンズが組織として、選手たちがもっと有機的に競争できる環境を作っていくことが、来季以降、雪辱を果たすために不可欠になる。
文●中島大輔(スポーツライター)
【著者プロフィール】
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。