頭数は揃っているが、実態はエンジェルスがここ数年、生温い補強で構築した投手陣と大差ない。球団は「ストローマン以上」を求め、FA市場でサイ・ヤング賞投手のブレイク・スネル(14勝9敗、防御率2.25)のような大物獲得か、トレードでレイズのタイラー・グラスノー(10勝7敗、防御率3.53)級の投手獲得を模索中だ。
補強が必要なのは救援陣も同じで、左腕ジョシュ・ヘイダー(33セーブ、防御率1.28)のような大物を狙うのか、昨オフFAで獲得しながらも期待に応えられなかったマイケル・フルマー(2セーブ、防御率4.42)のような投手を獲得するギャンブルに出るのか注目される。
補強ポイントの多さを考えると、「エンジェルスと同じじゃないか」とため息が出そうだが、カブスのチーム作りは曖昧な経営判断のエンジェルスとは一線を画しており、比較的鮮明に近未来を予測できる。
トム・リケッツ最高責任者を筆頭とする経営陣は09年にチームを買収すると、その2年後にレッドソックスとの契約を1年残していたセオ・エプスタインを編成総責任者として5年契約で招聘し、当時低迷中のチーム再建を全面的に託した。
エプスタインは就任直後からベテランや中堅の主力選手を次々とトレードで放出し、他球団の有望株を獲得したり、ドラフトの上位順位指名を確保しながら再建を進めた。有望株が成長する過程で「育成を継続する選手」と「トレード要員」を選別し、今度は他球団の主力を獲得したり、FA市場で補強を展開した結果、15年からの6年間で108年ぶりのワールドシリーズ制覇を含む5回のプレーオフ進出という「プチ黄金期」を築いた。
エプスタインの右腕だったジェド・ホイヤーが跡を継ぐと、エンジェルスがアルバート・プーホルスやマイク・トラウト、アンソニー・レンドーンらコストパフォーマンスに低くなったスター選手を保有し続けたのとは対照的に、16年MVPのクリス・ブライアントやアンソニー・リゾーら世界一をもたらした主力を放出し、「プチ黄金期」を解体。戦力再編成期を経て、現在はもう一度コンテンダーにのし上がる最後の仕上げを施すタイミングとなっている。 このオフは前ブルワーズのクレイグ・カウンセル新監督を迎え入れ、「最後の切り札」大谷獲得のために10年総額6億ドル級の超大型契約を用意しているという。
10年6億ドルも払ったら、他のポジションの補強も含めれば、ぜいたく税を含め赤字になるのではないかと危惧する向きもあるが、どの球団の地元記者も、大谷獲得時の恩恵として日系企業を含むスポンサー収入の増収で賄えると見ている。カブスの場合、チームが毎年のようにプレーオフ進出を果たすようになれば、スポンサー収入はもちろん、観客動員数も、MLB全体で9位(277万5149人/1試合平均3万4261人)だった今季よりさらに増えるだろう。
これは、健全な球団経営にはとても大事なことだ。観客動員数MLB13位のエンジェルス(264万0575人/1試合平均3万2599人)が決して人気球団ではないにもかかわらず、前年から10%近く動員を伸ばしたことを考えると、「全米屈指の人気球団で強くなくても客が入る」カブスなら、大谷加入でさらに大きな経済的効果を見込めるのではないか。
もちろん、それはカブスを上回る人気球団であるヤンキースなども同じなのだが、地区優勝の常連ドジャースやスーパースター軍団のヤンキースではなく、スーパースター不在にもかかわらず、地区優勝に手が届くポジションにいるカブスだからこそ、大谷は「最後の切り札」としてより輝けるのではないか? とリアルに思えてしまうのである――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO
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補強ポイントの多さを考えると、「エンジェルスと同じじゃないか」とため息が出そうだが、カブスのチーム作りは曖昧な経営判断のエンジェルスとは一線を画しており、比較的鮮明に近未来を予測できる。
トム・リケッツ最高責任者を筆頭とする経営陣は09年にチームを買収すると、その2年後にレッドソックスとの契約を1年残していたセオ・エプスタインを編成総責任者として5年契約で招聘し、当時低迷中のチーム再建を全面的に託した。
エプスタインは就任直後からベテランや中堅の主力選手を次々とトレードで放出し、他球団の有望株を獲得したり、ドラフトの上位順位指名を確保しながら再建を進めた。有望株が成長する過程で「育成を継続する選手」と「トレード要員」を選別し、今度は他球団の主力を獲得したり、FA市場で補強を展開した結果、15年からの6年間で108年ぶりのワールドシリーズ制覇を含む5回のプレーオフ進出という「プチ黄金期」を築いた。
エプスタインの右腕だったジェド・ホイヤーが跡を継ぐと、エンジェルスがアルバート・プーホルスやマイク・トラウト、アンソニー・レンドーンらコストパフォーマンスに低くなったスター選手を保有し続けたのとは対照的に、16年MVPのクリス・ブライアントやアンソニー・リゾーら世界一をもたらした主力を放出し、「プチ黄金期」を解体。戦力再編成期を経て、現在はもう一度コンテンダーにのし上がる最後の仕上げを施すタイミングとなっている。 このオフは前ブルワーズのクレイグ・カウンセル新監督を迎え入れ、「最後の切り札」大谷獲得のために10年総額6億ドル級の超大型契約を用意しているという。
10年6億ドルも払ったら、他のポジションの補強も含めれば、ぜいたく税を含め赤字になるのではないかと危惧する向きもあるが、どの球団の地元記者も、大谷獲得時の恩恵として日系企業を含むスポンサー収入の増収で賄えると見ている。カブスの場合、チームが毎年のようにプレーオフ進出を果たすようになれば、スポンサー収入はもちろん、観客動員数も、MLB全体で9位(277万5149人/1試合平均3万4261人)だった今季よりさらに増えるだろう。
これは、健全な球団経営にはとても大事なことだ。観客動員数MLB13位のエンジェルス(264万0575人/1試合平均3万2599人)が決して人気球団ではないにもかかわらず、前年から10%近く動員を伸ばしたことを考えると、「全米屈指の人気球団で強くなくても客が入る」カブスなら、大谷加入でさらに大きな経済的効果を見込めるのではないか。
もちろん、それはカブスを上回る人気球団であるヤンキースなども同じなのだが、地区優勝の常連ドジャースやスーパースター軍団のヤンキースではなく、スーパースター不在にもかかわらず、地区優勝に手が届くポジションにいるカブスだからこそ、大谷は「最後の切り札」としてより輝けるのではないか? とリアルに思えてしまうのである――。
文●ナガオ勝司
【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、
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