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MLB

「太く短く」でも「細く長く」でもなく「太く長く」生き抜くために――今永の球宴出場を支えた仲間たちと小さなハイテク武器<SLUGGER>

ナガオ勝司

2024.07.14

「投手のワークロード(=仕事量)を、試合やブルペンでの投球練習の時だけじゃなく、普段のキャッチボールを含む、あらゆる種類の投球動作の際に計測することで、負荷をかなり正確に追跡できる。それをどう活用するのかは我々次第でね。たとえばスティールが、ハムストリング(太腿裏)を痛めていた時には、彼がリハビリの各段階でどれぐらいの強度で投球ができているのかを知ることができたし、それはリハビリを進めていく上で大いに役立った」

 中4日、中5日の違いに関わらず、メジャーリーグでは登板間に、マウンドに立って投球練習するのは原則1度だけ。その他の日はキャッチボールや遠投、投本間の立ち投げで「投球練習」を補うのが常だ。ただし、その個人差は大きい、とホットビー投手コーチは続けた。

「ジャスティン(・スティール)はハイ・インテンション(高強度)で投げる投手だけれど、投球量は少なく、投げる距離も非常に短い。一方、(先発と救援を兼ねる)ヘイデン(・ウェスネスキー)はロー・インテンション(低強度)だけど、非常に長い距離を投げる。そういう違いを把握できるようになったのは、カタパルトのおかげでね。ショータは1週間を通して自分の投球量の傾向を理解するのに、このデバイスを役立ている。同じキャッチボールでも、強度を落として投げるだけの日もあれば、上げて投げる日もあるし、遠投も同じだ。彼の素晴らしい部分は、自分の感覚と擦り合わせながら強度の上げ下げを判断できることだろうな」

 ラプソード、トラックマン、そして今度はカタパルト。テクノロジー全盛のメジャーリーグで、今永は「最終的には自分の感覚なんですけどね」と言う。

「日本での最後の方は、先発ローテーションの柱の一人として投げさせていただいてましたし、調整法に関してはあまり言われなくなったので、自分の感覚でやっていた部分が大きかった。でも、メジャーは162試合と長いですし、監督や投手コーチからも、今年だけじゃなく来年、再来年と活躍できるようにと言われているので、客観的に自分の仕事量を見られるのはいいと思ってます」
「太く短く」でもなければ「細く長く」でもない。「太く長く」生き抜くことができるように、今永は自分の可能性を押し広げようとしている。

「疲れているけどパフォーマンスがいいっていう時が、一番危険だと思うんです。『パフォーマンスがいいから、状態もいいんだ』って思って勘違いしちゃうと、怪我につながると思う。疲労度とパフォーマンスはある程度一致させておかないと、僕の中では良くない気がしている。まあ、つまり、疲れている時のパフォーマンスですね。カタパルトはその辺が可視化できる」

 17試合に先発して8勝2敗、防御率2.97。上々のスタートを切ったメジャー1年目の前半戦で最も評価すべきは、5試合で防御率5.67と苦しんだ6月を経て、わずか2試合ながら7月の防御率2.25とBounce Back=立ち直った部分ではないか。

 今永とカブスはおそらく、公式戦では残り13試合前後の先発を予定している。仲間たちとのコミュニケーションも、ハイテク機器の活用も、すべては一見地味で、しかし確かな足跡という意味で、おそらく他の何よりも大切なゴール=目標の達成のために、存在するのだろう――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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