●「そこでバットを振ってみろ」
巨人の監督を一度解任され、いわゆる“浪人生活”を送っていた87年、打撃不振に苦しむ掛布雅之(阪神)が、ミスターに電話でアドバイスを求めた。ミスターは熱心に掛布の打撃フォームの欠点を指摘した後、「そこでバットを振ってみろ!」とひと言。スマホなどなかった当時、固定電話で受話器を抱えたままどうやってバットを振ればいいんだと掛布は途方に暮れたものの、この時の助言でスランプは脱したという。
●「打つと見せかけてヒッティングだ」
これは第2期監督時代の話。後に通算533犠打の世界記録を打ち立てることとなる“バントの神様”川相昌弘を代打に起用したミスターが、そばに行ってこっそり耳打ちした。「川相、打つと見せかけてヒッティングだ」。バントなの!? 打てばいいの!? どっちなの!? と川相も当惑したという。
なお、ミスターは代打を送った際に、思わずバントのジェスチャーをしてしまったこともある。当然ながら相手野手陣は猛チャージをかけてきてバントは失敗。ミスターは「サインがバレてるんじゃないか⁉」と驚いていたが、そりゃそうですよ監督……。
●「今年、初めての還暦を迎えまして...ましてや年男ということで」
1996年2月20日、ミスターは60歳、つまり還暦を迎えた。嬉しさのあまりこんなコメントが飛び出したが、60歳の人間にとって還暦は当然、初めて。ましてや干支がひと回りするから還暦というのであって、年男なのも当たり前のことである。ただ、ミスターが亡くなった今、2度目の還暦(120歳)を迎えるまで長生きしてほしかったと切に思う。もうあの“長嶋節”を聞くことはできないのだ。
●「若い君たちには夢がある。希望を捨てずに頑張ってほしい」
最後に、一風変わった名言を紹介しよう。熱心なファンでもミスターのこんなフレーズは聞いたことがないと思うだろうが、それは当たり前だ。これは正確には発言されなかったものなのだから。
74年10月14日、「わが巨人軍は永久に不滅です」で知られるミスターの引退スピーチには、本来なら一茂ら子供たちに向けて、この一節が挿入されるはずだった。ミスターは引退スピーチに並々ならぬこだわりを持ち、わざわざ後楽園飯店(現在も後楽園ホールビル2階にある老舗中華料理店)に子供たちを集めて、入念にリハーサルまで行ったという。
ところが、いざ本番でよりによってこのフレーズをド忘れ。結局、「お蔵入り」となってしまった。球史に残る名スピーチの裏にもこのようなエピソードがあるのが、何ともミスターらしい。
文●筒居一孝(SLUGGER編集部)
巨人の監督を一度解任され、いわゆる“浪人生活”を送っていた87年、打撃不振に苦しむ掛布雅之(阪神)が、ミスターに電話でアドバイスを求めた。ミスターは熱心に掛布の打撃フォームの欠点を指摘した後、「そこでバットを振ってみろ!」とひと言。スマホなどなかった当時、固定電話で受話器を抱えたままどうやってバットを振ればいいんだと掛布は途方に暮れたものの、この時の助言でスランプは脱したという。
●「打つと見せかけてヒッティングだ」
これは第2期監督時代の話。後に通算533犠打の世界記録を打ち立てることとなる“バントの神様”川相昌弘を代打に起用したミスターが、そばに行ってこっそり耳打ちした。「川相、打つと見せかけてヒッティングだ」。バントなの!? 打てばいいの!? どっちなの!? と川相も当惑したという。
なお、ミスターは代打を送った際に、思わずバントのジェスチャーをしてしまったこともある。当然ながら相手野手陣は猛チャージをかけてきてバントは失敗。ミスターは「サインがバレてるんじゃないか⁉」と驚いていたが、そりゃそうですよ監督……。
●「今年、初めての還暦を迎えまして...ましてや年男ということで」
1996年2月20日、ミスターは60歳、つまり還暦を迎えた。嬉しさのあまりこんなコメントが飛び出したが、60歳の人間にとって還暦は当然、初めて。ましてや干支がひと回りするから還暦というのであって、年男なのも当たり前のことである。ただ、ミスターが亡くなった今、2度目の還暦(120歳)を迎えるまで長生きしてほしかったと切に思う。もうあの“長嶋節”を聞くことはできないのだ。
●「若い君たちには夢がある。希望を捨てずに頑張ってほしい」
最後に、一風変わった名言を紹介しよう。熱心なファンでもミスターのこんなフレーズは聞いたことがないと思うだろうが、それは当たり前だ。これは正確には発言されなかったものなのだから。
74年10月14日、「わが巨人軍は永久に不滅です」で知られるミスターの引退スピーチには、本来なら一茂ら子供たちに向けて、この一節が挿入されるはずだった。ミスターは引退スピーチに並々ならぬこだわりを持ち、わざわざ後楽園飯店(現在も後楽園ホールビル2階にある老舗中華料理店)に子供たちを集めて、入念にリハーサルまで行ったという。
ところが、いざ本番でよりによってこのフレーズをド忘れ。結局、「お蔵入り」となってしまった。球史に残る名スピーチの裏にもこのようなエピソードがあるのが、何ともミスターらしい。
文●筒居一孝(SLUGGER編集部)
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