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MLB

<2020ベストヒット!>サイン盗みにタンキング…“球界で最も嫌われている球団”アストロズがもたらした「功罪」

出野哲也

2020.12.13

アストロズは他球団に先んじてフライボール打法を採用。ホゼ・アルトゥーベもこうした指導で体格のハンディキャップを乗り越えて強打者に変身した。(C)Getty Images

アストロズは他球団に先んじてフライボール打法を採用。ホゼ・アルトゥーベもこうした指導で体格のハンディキャップを乗り越えて強打者に変身した。(C)Getty Images

 打撃面での最大の成果は、他球団に先んじてチームぐるみでフライボール打法を試みたことが挙げられる。マイナーでも打球角度を意識した打ち方を奨励し、フライ率の高い打者を積極的に獲得。ホゼ・アルトゥーベもこうした指導で体格のハンディキャップを乗り越えて強打者に変身した。一方で、本塁打を狙うあまり三振が増えすぎたと判断するや、コンタクト能力に秀でた打者も加入させてバランスを取った。19年も288本塁打はリーグ3位でありながら、1166三振は最少。投手陣は1671三振を奪っているので、収支は+505個に達する。

 今ではどこもデータを利用するのは当たり前だが、その理解度の深さ、使い方においてアストロズは一歩先を行っている。1960年代のドジャース、70年代のオリオールズのように、その時代に最も先端を歩んだ球団として、2010年代のアストロズはメジャーの歴史に名を残すだろう。

 もっとも、このようにテクノロジーを利用した選手獲得・育成に確信を得たことで、アストロズはスカウトやマイナー指導者のリストラに踏み切ってもいる。非情な球団と言われるのは承知の上で、効率を重視したチーム経営に邁進しているのだ。外聞を一切気にしない点は潔ささえ感じるが、いったん逆風に晒されると人一倍風当たりが強くなるのは、このたびのサイン盗み騒動でも明らかになった。
 
 1月13日、コミッショナーのロブ・マンフレッドはアストロズへの処分を発表。ワールドチャンピオン剥奪こそ免れたものの、500万ドルの罰金に加え、ルーノーGMとAJ・ヒンチ監督は1年間の出場停止、さらに20~21年のドラフト1・2巡目指名権剥奪という厳罰が科された。これを受け、球団はルーノーGMとヒンチ監督を解任。球界屈指の敏腕と謳われたルーノーGMの天下はあっけなく終わった。

 注目に値するのは、マンフレッドがアストロズの気風について「球団職員への態度、他球団やメディアとの関係に表れていたように深刻な問題があった」と指摘していることだ。つまりコミッショナーは、サイン盗みそのものだけでなく、その根幹にあるアストロズの行き過ぎた勝利至上主義をも断罪したのである。

 新たなディケイドの幕開けとともにアストロズの時代が終焉を迎えるのだとしたら、やはり彼らは「最も2010年代を代表するチーム」だったということになる。

文●出野哲也

※『スラッガー』2020年3月号より転載

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