スペインがイングランドを説得力に満ちたサッカーで下し、2008年、12年に続いて過去5大会中3度目の優勝を飾って幕を閉じたEURO2024。大会全体を振り返ってみると、今後の代表レベルのサッカーが向かう方向を示唆するようないくつかの傾向が見られたので、以下それについて考察していきたい。
【動画】EURO2024決勝、スペイン対イングランドのハイライトをチェック!
1)個のクオリティーに依存するだけでは勝てない
ピッチ上のパフォーマンスについて今大会全体を通して言えるのは、個のクオリティーやタレント力という点では、優勝を狙うような強豪国の間に大きな差はなく、違いを作り出したのはむしろ、それを組織的なメカニズムの中で引き出して活かす、チームとしての戦術的完成度、洗練度の方だということ。そして攻撃のタレントを組織の中で活かすためには、失点のリスクをある程度受け容れても、攻守両局面において積極的かつ能動的に振る舞うことで、彼らが活躍する状況を準備する必要があるということだ。
象徴的だったのは、スペインとイングランドの決勝だ。攻撃のタレントを比較すれば、スペイン(ラミネ・ヤマル、アルバロ・モラタ、ダニ・オルモ、ニコ・ウィリアムス)よりも、むしろイングランド(ブカヨ・サカ、ハリー・ケイン、ジュード・ベリンガム、フィル・フォデン、コール・パーマー、オリー・ワトキンス)の方が上をいっていたと言っていい。しかし、そのタレント力で違いを作り出したのは、イングランドではなくスペインの方だった。
スペインは、洗練されたビルドアップのメカニズムによって、あるいはアグレッシブに前に出るプレッシングで敵陣でボールを奪うことによって、ヤマルやN・ウィリアムスがいい形で前を向いて仕掛ける場面を再三作り出し、彼らの決定的な仕事をお膳立てした。
一方イングランドは、スペインにボールを持たせてミドルゾーンで待ち受ける受動的な守備に終始し、しかもフォデンがロドリをマンマークした前半が示すように、持てるリソースの大半をその守備に費やした。その結果、ワールドクラスのタレントたちが本来のクオリティーを発揮する機会を、偶然に頼る形で散発的にしか作り出すことができなかった。
73分に決まったイングランドの同点ゴールは、仕掛けたサカからのパスをベリンガムがワンタッチで落とし、そこに走り込んだパーマーが狙いすましてゴール左隅を撃ち抜くという、タレントの閃きに満ちたアクションがもたらしたものだ。しかし1試合の中で一度か二度、こうした場面を偶然に作り出すだけでは、タイトルを勝ち取るには十分とは言えない。イングランドは、もしスロバキア戦の後半アディショナルタイムにベリンガムがあのバイシクルシュートを決めていなければ、ベスト16で敗退していたのだ。
ワールドクラスのタレントを擁しながらも、彼らの力を引き出す戦術を用意するよりも、まず失点のリスクを最小化することを優先し、攻撃は彼らの個人能力にほぼ全面的に依存する、良く言えば堅実、悪く言えば受動的で戦術的洗練度に欠けていたもうひとつのチームが、キリアン・エムバペ、ウスマンヌ・デンベレ、ランダル・コロ・ミュアニ、アントワーヌ・グリーズマンらを擁するフランスだ。
スペインに敗れた準決勝を見ても、フランスはスペインのポゼッションを分断してボールを奪回する戦術的な手段(マンツーマンのハイプレス、狙ったボール奪取ゾーンに誘導する連動したプレスなど)を持たず、受動的にスペインの攻撃を受け止めるだけ。前半9分という早い時間帯に、エムバペのピンポイントクロスによって先制したものの、スペインの攻勢の前にあっけなく逆転されると、その後はボールと主導権を握られて試合をコントロールされ、それに対する有効な対抗手段を見出すことができないまま、試合終了を迎えるしかなかった。
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1)個のクオリティーに依存するだけでは勝てない
ピッチ上のパフォーマンスについて今大会全体を通して言えるのは、個のクオリティーやタレント力という点では、優勝を狙うような強豪国の間に大きな差はなく、違いを作り出したのはむしろ、それを組織的なメカニズムの中で引き出して活かす、チームとしての戦術的完成度、洗練度の方だということ。そして攻撃のタレントを組織の中で活かすためには、失点のリスクをある程度受け容れても、攻守両局面において積極的かつ能動的に振る舞うことで、彼らが活躍する状況を準備する必要があるということだ。
象徴的だったのは、スペインとイングランドの決勝だ。攻撃のタレントを比較すれば、スペイン(ラミネ・ヤマル、アルバロ・モラタ、ダニ・オルモ、ニコ・ウィリアムス)よりも、むしろイングランド(ブカヨ・サカ、ハリー・ケイン、ジュード・ベリンガム、フィル・フォデン、コール・パーマー、オリー・ワトキンス)の方が上をいっていたと言っていい。しかし、そのタレント力で違いを作り出したのは、イングランドではなくスペインの方だった。
スペインは、洗練されたビルドアップのメカニズムによって、あるいはアグレッシブに前に出るプレッシングで敵陣でボールを奪うことによって、ヤマルやN・ウィリアムスがいい形で前を向いて仕掛ける場面を再三作り出し、彼らの決定的な仕事をお膳立てした。
一方イングランドは、スペインにボールを持たせてミドルゾーンで待ち受ける受動的な守備に終始し、しかもフォデンがロドリをマンマークした前半が示すように、持てるリソースの大半をその守備に費やした。その結果、ワールドクラスのタレントたちが本来のクオリティーを発揮する機会を、偶然に頼る形で散発的にしか作り出すことができなかった。
73分に決まったイングランドの同点ゴールは、仕掛けたサカからのパスをベリンガムがワンタッチで落とし、そこに走り込んだパーマーが狙いすましてゴール左隅を撃ち抜くという、タレントの閃きに満ちたアクションがもたらしたものだ。しかし1試合の中で一度か二度、こうした場面を偶然に作り出すだけでは、タイトルを勝ち取るには十分とは言えない。イングランドは、もしスロバキア戦の後半アディショナルタイムにベリンガムがあのバイシクルシュートを決めていなければ、ベスト16で敗退していたのだ。
ワールドクラスのタレントを擁しながらも、彼らの力を引き出す戦術を用意するよりも、まず失点のリスクを最小化することを優先し、攻撃は彼らの個人能力にほぼ全面的に依存する、良く言えば堅実、悪く言えば受動的で戦術的洗練度に欠けていたもうひとつのチームが、キリアン・エムバペ、ウスマンヌ・デンベレ、ランダル・コロ・ミュアニ、アントワーヌ・グリーズマンらを擁するフランスだ。
スペインに敗れた準決勝を見ても、フランスはスペインのポゼッションを分断してボールを奪回する戦術的な手段(マンツーマンのハイプレス、狙ったボール奪取ゾーンに誘導する連動したプレスなど)を持たず、受動的にスペインの攻撃を受け止めるだけ。前半9分という早い時間帯に、エムバペのピンポイントクロスによって先制したものの、スペインの攻勢の前にあっけなく逆転されると、その後はボールと主導権を握られて試合をコントロールされ、それに対する有効な対抗手段を見出すことができないまま、試合終了を迎えるしかなかった。
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